ナベヅルというツルの仲間がいます。お鍋の底のような灰色だから付いた名前だそうです。冬にシベリアから日本にやって来る渡り鳥です。絶滅の危機にあり、保護されている鳥です。
世界中の動物園でおよそ80羽が飼育されています。繁殖が難しい鳥で、なかなか増えてくれません。天王寺動物園はナベヅルを増やすことに特に力を入
れています。1羽でも多くのヒナを育てたいと考えて、昨年はナベヅルの産んだ卵をほかのツルにも抱かせました。
ツルは春になると2個の卵を産みます。その卵が無くなったときには、また2個の卵を産む習性があります。その習性を使って、はじめに産んだ2個の卵
をタンチョウに抱かせました。次に産んだ2個をカナダヅルに抱かせました。
3回目に産んだ卵はそのままナベヅル自身に抱かせました。タンチョウもカナダヅルも、これまでに何度かヒナを育て上げたベテランです。タンチョウが1
羽、カナダヅルが2羽、ナベヅルが1羽のヒナを孵化しました。
タンチョウもカナダヅルも、孵化したヒナを自分たちの子として育てました。
ヒナが成長するに従って、からだの色や模様が親と違っていることがはっきりしてきましたが、それでも親の接し方は変わりませんでした。ヒナの成長はとても早く、秋には無事に4羽とも親とほぼ変わらない大きさにまで成長しまし
た。1羽のナベヅルが産んだ卵ですが、面白いことに育ったヒナの性格はまっ
たく違います。育ての親に似るようです。次の産卵のシーズンが近づいたため、
年末にはヒナを親から別居させました。
このようにして、4羽のナベヅルが育ちました。ナベヅルだけなら1年間に多くても2羽しか育てられないのです。昨年の作戦はタンチョウやカナダヅルのおかげで成功しました。育った4羽はペアを組むために他の動物園に移動する予定です。飼育されているナベヅルの数は世界的にまだまだ十分ではありません。今年もまた、ツルの仲間に協力をお願いするかも知れません。