「なきごえ」をお読みの皆様、あけましておめでとうございます。今回は今年の干支にちなんで、天王寺動物園にいるシマウマたちについてのお話をしたいと思います。
誰もが知っているシマウマ、でもいつも主役になれないシマウマ。私がそんな名脇役たちの面白さを知ることができたのは、2000年8月にオープンした「アフリカサバンナ区草食動物ゾーン」の担当になってからのことでした。それまでの私にとってシマウマはあまり印象のいい動物ではありませんでした。200kgを超える巨体に怪力、そして体の大きさに不釣り合いな素早い動き。臆病な性格で、驚くと考えるより先に走って事故をおこし、そのくせ気の荒い個体は蹴るわ咬むわで扱いが厄介。そんな印象がありました。
さて、現在シマウマたちが暮らすサバンナゾーンはキリンやエランド、ダチョウたちと共に混合飼育することで、アフリカの生息地を再現しようというエリア。ここが完成し、動物たちの引っ越しが始まったのが2000年4月のことでした。
キリンやエランド、ダチョウなどは木製の専用輸送檻を用いてサバンナへ移動しました。しかしシマウマは麻酔薬を用い、眠らせて移動しました。なぜなら輸送檻の中でパニック状態になり、力任せに暴れまわって自らの力で首や足を骨折する事故をおこす可能性があったからです。麻酔薬は扱いが難しく、あまり安全な方法ではないのですが、ふだんは調べる事が難しい体重や血液を検査する絶好の機会でもあります。
さて、引っ越しが終了すれば次は新しい屋内の収容施設に慣れてもらわなくてはなりません。外の放飼場へ出す前に、まずは寝室と予備放飼場での生活に慣れてもらいます。寝室は一頭ずつの個室に分かれており今まで一緒にいたシマウマ達をそれぞれの個室へ分かれて入るようにするのに慣れを要しました。また電動扉など今まで経験のない設備もあり、動物達に施設の事を学んでもらう必要があったのです(なきごえ2001年1月号参照)。寝室での生活に慣れた頃、いよいよ放飼場への出入りを開始しました。まずは各種類ごとに放飼場へ出し、ここでも電気柵や新しい放飼場の事を覚えてもらいます。
初対面の動物たち
さて今回サバンナで同居する動物達は以前は園内で別々の場所で飼育されていたので皆が初対面。いきなり一緒にしても万が一ケンカでも起こせば大変なので、次は動物達のお見合いです。柵越しにお互いの姿を見せ、少しずつ組み合わせを変えながら時間をかけて同居の練習を行ないました。背の高いキリンに大きなツノのエランド、そして派手なシマウマ。初めて見るお互いの姿にどんな事を思ったのでしょうね。
さてここから中心になる3頭のメスシマウマのミカ、トモコ、ノリコ。オスは繁殖計画の都合上別居中です。名前と顔は次ページを参照下さい。動物達が落ち着くと次第に力関係が生まれて来ます。エランドのフウは自分より小さな動物に意地悪で、3頭のメスシマウマたちはよく面白半分に追われていました。フウの玩具にされ他のエランドが近付いても道を譲るシマウマたちに、お人好しのような印象さえ生まれました。実は他の園での混合放飼では、シマウマはよくトラブルを起こす気の荒い問題児なのです。しかし当園の個体は人の言う事も聞き、なんて出来た子たちなんでしょうと、皆そう思っていました。
やがて、サバンナのメンバーでありながら飼育が難しく、馴致の遅れたトムソンガゼルも同居の練習を行なう事になりました。最初の相手はお人好しのメスシマウマ3頭。しかし、いざ一緒にすると3頭のシマウマはトムソンたちを追い回すではありませんか。メスのリーダーのミカが群れを統率し、トムソンの弱い子供を集中的に追ったり二手に分かれて挟み撃ちしたりと攻撃が納まる様子も無く、再度同居方法を考え直すことになりました。先に放飼場に慣れたシマウマたちは、見た事も無い異様な侵入者を排除しようとでもしたのでしょうか。
この少し後からエランドとの力関係も変化してきました。意地悪フウが近付くとトモコが列の最後尾に立ち、蹴りでフウを追い払うようになってきました。これがきっかけになりメスのエランド2頭とシマウマたちの立場は全く逆転しました。メスのエランドを払いのけ歩くシマウマたち。そしてシマウマのトモコが遂にキリンのメス、ハルミをも襲いだしたのです。キリンは大きな体ですが争いを好まず、トモコは単独で執拗にハルミを攻撃します。サバンナで力関係の頂点にいるオスのエランド・カズは自分に関係のない争いには無関心。
ケニア、遂に立ち上がる
誰もトモコを止められないのかと悩んでいた頃、遂に立ち上がったのがオスのキリンのケニアでした。2001年3月にやって来た新入りケニアに群れを守る自覚が出来たのでしょうか、首を横に振り頭部をハンマーのように叩き付けるネッキングでトモコを攻撃。トモコは咬み付きや蹴りで応戦しますがケニアはものともせず徹底的にトモコを追い、攻撃します。ついにひるんだトモコをなおも睨みつけるケニア。この日を境にトモコのキリンいじめはいったん沈静化しました。ちなみにこのシマウマたちと唯一対等な関係にあるのが、3羽のダチョウたち。シマウマたちとは追ったり追われたりの関係で、まるでトムとジェリーを見ているようです。
やはり当園でも問題児だったシマウマたち。でも私はそんなシマウマたちが憎めず、今まで以上に関心が高まってきたのです。厳しい上下関係、群れの中の役割、個性。本当に観察していて飽きない動物です。単なるライオンの餌ではなく、頭が良くてわんぱくでパワフルで、激しい情熱に満ちたシマウマの姿に改めて魅力を感じてしまったのです。
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