「移入動物ってなんだろう」


■はじめに
 この数年、新聞やテレビなどで移入動物の問題がよく取り上げられるようになってきました。大阪近辺の話題としてよく出てくるのは和歌山県のタイワンザルと琵琶湖のブラックバスですが、一体、移入動物とは何なのでしょうか。またなぜ大きな問題としてマスコミでも取り上げられるのでしょうか。日本の移入動物の現状について一緒に考えてみましょう。

○移入動物とは

移入動物の分類(表1)
外国産野生動物
 愛玩用:アライグマ、シマリス
 産業用:マスクラット、ヌートリア
 観光用:タイワンザル、タイワンリス
 駆除用:マングース
日本産野生動物(国内移入種)
 キタキツネ→本州
 ホンドテン→北海道 
 ニホンイタチ→北海道、沖縄
野生で定着した家畜
 ヤギ→小笠原諸島、尖閣列島

 移入動物という言葉は一般の人にはまだ耳慣れないかもしれません。以前は帰化動物という言葉が用いられていましたし、侵入動物とか外来動物という言い方もあります。厳密に言えばそれぞれの意味、定義は多少ちがいますが、最近では移入動物という言葉がよく用いられています。移入動物の解釈としては「本来その地域には存在しなかったが、人間を介して持ち込まれ、野生で定着し自然繁殖するようになった動物」とでも定義できるのではないでしょうか。

 ところで移入動物とは外国産の野生動物、いわゆるエキゾチックアニマルと考えられがちですが、日本産の野生動物でも国内で本来の生息地域とは異なる別の地域や島などに移された場合、これを国内移入種と呼んでいますし、家畜も野生で定着すれば移入動物に含まれます(表1)。北海道のキタキツネが本州に、反対にホンドテンが北海道に持ち込まれた例は前者の例ですし、植生の破壊や果樹などへの被害が大きな問題になっている小笠原諸島のヤギは後者の代表例です。

○日本における移入動物の現状
 日本の移入動物は野外で一時的にその生存が確認されたものも含めれば、哺乳類では40種を越えると言われていますし、鳥類は 100種以上にものぼるとされています。そのほとんどはペット由来のものです。主なものを表2に示しました。

日本の主な移入動物(外国産野生動物)(表2)
動物名
原産地
移入年
国内分布
ハリネズミ
タイワンザル
タイワンリス
マスクラット
ヌートリア
アライグマ
ミンク
ハクビシン
マングース
ハナジカ
ワカケホンセイインコ
ベニスズメ
アカミミガメ
カミツキガメ
ブルーギル
ブラックバス
ヨーロッパ
台湾
台湾
北アメリカ
南アメリカ
北アメリカ
北アメリカ
東南アジア
東南アジア
台湾
インドなど
東南アジア
北アメリカ
北アメリカ
北アメリカ
北アメリカ
1987
1940
1930頃
1940頃
1935
1962
1950頃
1943
1910
1955
1973頃
  ?
1970頃
1998頃
1960頃
1925頃
関東
青森(下北半島)、和歌山(和歌山市)
東京(大島)、神奈川、和歌山、長崎
関東
関東、中部、関西、中国、四国
北海道、関東、岐阜、愛知
北海道、東北
北海道、東北、関東、中部、四国
沖縄、鹿児島(奄美大島 1979年)
沖縄、和歌山(友ケ島)
東京、千葉、神奈川
東京、大阪、兵庫
全国
関東、関西の大都市周辺
全国
全国

 例えば、南アメリカに分布するヌートリアは第2次世界大戦での軍隊用防寒服を作るために輸入されて養殖が始まりますが、戦後は毛皮の需要がなくなって野に放たれたという経緯があります。岡山や兵庫、岐阜県の河川で増えていますが、最近は淀川でも確認され、いよいよ大阪にも上陸しました。またニホンザルとの雑種が懸念されるタイワンザルは観光目的の動物施設から逃げ出したものですし、東南アジアに分布するマングースはハブの駆除目的で奄美大島へ導入されたものの、昼に活動するマングースが夜行性のハブを襲うはずもなく、その代わりにアマミノクロウサギなど希少な在来種へ影響を与え始めています。かわいらしいイメージのアライグマはアメリカ大陸に分布する動物ですが、動物施設や個人で飼育していたものが逃げ出したりして日本各地で野生化し、特に北海道や神奈川県、岐阜県などでは野外で繁殖して増えています。
 一方、鳥類では外国産のベニスズメやブンチョウ、セキセイインコなどの飼鳥が数多く国内で定着しています。ベニスズメは各地で確認されており、大阪の淀川や大和川の河川敷のヨシ原では繁殖していますし、インド、スリランカ原産のワカケホンセイインコは関東地方で数百羽の群れを作っています。また日本の池や、河川は今や北アメリカ原産のアカミミガメだらけで、日本産のカメが珍しくなってきています。さらに北アメリカ由来のブルーギルやブラックバスも琵琶湖に限らず日本各地の湖沼で増えつづけ、日本産淡水魚の減少、絶滅が心配されています。

○移入動物の問題点

子供の時はかわいいアライグマ

 移入動物がもたらす問題点は大きく3つに分けられると思います。その中でも一番大きな問題は生態系の攪乱(かくらん)ではないでしょうか。日本在来の動物や自然の生態系へ与える影響は大きく、日本産の動物が移入動物に生息場所を追われ、その数が減少し、中には絶滅の危機に直面しているものもあります。日本の池や川からクサガメやイシガメがいなくなってアカミミガメだらけというのは、もう当たり前の日本の風景になってきたように思います。また移入動物に襲われたり食べられたりする日本産の小動物や鳥、魚、昆虫もかなりあり、前述のマングースによる日本特産のアマミノクロウサギの捕食は緊急に対応しなければ、取り返しのつかないことになるでしょうし、マングースの分布が広がる沖縄のヤンバルクイナにもその危機が近づいています。さらに近縁種の動物同士による交雑も恐ろしい問題で、タイワンザルとニホンザルの雑種が自然界で誕生している事実は、日本の固有種であるニホンザルの保存に警鐘が鳴らされたものと言えます。
 2点目は農業や、水産業および施設や設備などへの被害です。北海道におけるアライグマの分布は広がる一方で、1995年に 211市町村中31市町村だったものが1998年には63市町村へと広がっています。アライグマによる北海道のスイカやメロン、トウモロコシなどの農業被害は増加の一途で、1998年には3100万円に達しました。またブラックバスやブルーギルの増加に伴い、ニゴロブナやホンモロコ、ワカサギなどの淡水魚が激減し、水産業者の死活問題にさえなってきました。神奈川県ではタイワンリスによって樹木がかじられる被害に加え、電線までがかじられ、停電や電話不通などが問題となっています。
 3点目は動物から人へ感染する病気や危害の問題です。北アメリカでは20年ほど前からアライグマの回虫の幼虫が野生動物や人へ感染し、死に至らしめるということで、その危険性が大きな問題となっています。また大都市近辺で確認されだしたワニガメは甲長80cm、カミツキガメでは50cmにも達する大亀で、これらが川の中で遊んでいる人にかみつけば大きな事故につながることは間違いありません。

○移入動物への対策と考え方
 日本での移入動物の最大の問題は、珍奇なペットブームにその根本原因があると思います。日本に年間に輸入されるエキゾチックアニマルの概数は 400万頭とも言われており、手頃な価格ということもあって愛玩動物としては高い人気を集めています。これらの動物の一部が飽きられて捨てられる、飼育管理の未熟さで脱走するなどから野生での定着が始まるわけで、まさにペットが移入動物の予備軍的な存在ともいえます。いったん定着した移入動物を根絶することはなかなか困難なことです。法的な規制や駆除による対策はもちろん必要ですが、その前段での対策を講じることが最も大切ではないでしょうか。生物多様性の大切さを訴え、移入動物の問題点(産業被害、生態系の攪乱、感染症の危険性)を正しく解説することはペットの衝動的な購入や飼いきれなくなって捨てるということに多少でも歯止めがかけられるかもしれません。しかしその前に、このペットブーム自体がおかしいことだと、私たち全員が心すべきことであると思います。駆除する前に輸入をやめる。これが肝心なことではないでしょうか。

○おわりに
 移入動物の問題の本質は移入動物をつくり出した人間にあるわけで、その対応については十分検討していくことが必要です。一歩対応を間違えると、21世紀には日本からキツネやタヌキがいなくなり、日本の童話や童謡にはアライグマが登場するような気がしてなりません。そういう日本って、見たくもないですよね。

(飼育課 宮下 実)