「クロサイ・サミーの引越し計画」

チェスター動物園へ旅立つ
クロサイのサミー

  当園のクロサイの赤ちゃんは皆さんから「サリー」という女の子らしい名前をつけていただき、母親のサッチャンのお乳を飲んで、すくすくと育っています。
 去年の今頃はサリーの場所にはお兄ちゃんのサミーがまだまだ甘えん坊でサッチャンのかたわらに、よりそうようにしていたのですが、新しい赤ちゃんの出産をひかえ、昨年10月にサッチャンとサミーの親子を分けて飼うようになりました。その時の様子は昨年の本誌10月号のキーパーズアイ「ガンバレ!サミー」に紹介されています。なかでも一人になったサミーが母親のサッチャンを慕って鳴くようすに思わずじーんとするのは私だけでしょうか。さて、「ガンバレ!サミー」の文末は立派なオスサイになりクロサイの子孫を数多く残してというメッセージで締めくくられています。この言葉の実現のためサミーは、いよいよイギリスのチェスター動物園に旅立つことになりました。
 動物園ではたくさんの動物の移動がありますが、大型の動物の移動(引越し)は大変気を使うものです。さて、今回はサミー専用の檻を作り、それをサミーの寝室の出口にすえ付け、時間をかけて、この檻に慣らして最終的に檻の中に入れたままトラックで関西国際空港まで運び、関西空港からは飛行機でイギリスまで運ぶことになります。
 当園では3年前に現在のサイ舎が完成し、サミーの両親のトミーとサッチャンの2頭を旧サイ舎から移動させています。その際に使った方法は、飛行機で長距離を移動させる点を除けば檻に慣らし、その中に入れて移動する点では大変似ています。
 まず、檻を作るについては設計図がいります。今回は、飛行機に積み込まねばならないことから、チェスター動物園に設計図を作ってもらい、それに基づいて大阪の工場で檻を作ってもらいました。今年の2月14日完成した檻を寝室出口にすえ付け、この原稿を書いている現在は、寝室出口の反対側の檻の出入り口に鉄格子から入れた餌を与えて檻に慣らしているところです。昨年末から今年の初めまで、一人暮らしをはじめたサミーが落ち着くように、と漢方薬を与えたこともありましたが、担当者の努力が実を結んで慣らし作業も順調に運びました。
 このあと、サミーの乗る飛行機の便が決まれば、いよいよ正念場の檻への誘導、つまり捕獲作業が待っています。飼育担当者を中心とするキーパーたちの日ごろの苦労がこの一点に集中します。我々、動物病院担当の獣医師の出番は檻に入れた瞬間から始まります。おそらく、サミーは入った瞬間からパニックになり檻の中で暴れるものと思われますので、一刻も早く麻酔を注射し、サミーを動けなくさせることです。専門的には、薬によって動けなくすることを「化学的不動化」と呼んでいます。化学的不動化をすばやく行うことにより、檻の中で暴れてサミーが怪我をすることのないようにするのです。ここまでが無事に終われば、サイ舎にすえ付けた檻を取り外して、トラックに積込むことになります。
 その間、必要に応じて麻酔を覚まさせたり、あるいは、かけたりという作業を空港に着くまですることになります。
 一通りのことは、両親のサッチャンやトミーの新サイ舎への移動の時に経験しているのですが、もちろん言葉は通じず、しかも、臆病で神経質、力の強い大きな動物とあって、一瞬たりとも気の抜けないところです。
 サミーのイギリス行きについて、直前にはイギリスからも獣医師が来ることになっていますので、これからまだまだ細かい点の打ち合わせをしながら、進めていくことになりそうです。

飼育課 高橋 雅之