野生のシカとの出会い

喫茶店経営
井上 隆史さん

 私は、大阪府の最北端・能勢町で、ログハウスの喫茶店を経営しています。今から10年ほど前にそのログハウスを建てていた時のことです。ふっと、何かの気配を感じ、横を向くとシカがうずくまっているではありませんか。こんな間近で見るのは初めてのこと、そんなに大きくもなく、真っ黒な目をくりくりさせています。ところが荒い息づかいで後ろ足から血を流しているではありませんか! 逃げようとする様子もないので、何とか保護しようと友人とふた手に分かれて、そっと忍び寄ったのですが、やはり驚いて逃げて行きました。しばらくすると猟師と猟犬がやって来たので、私は思わずにらまずにはいられませんでした。

 その後も、夜、車で走るたびにシカの目の光るのが見えたり、ふとした瞬間に寂しげな鳴き声が聞こえてきたり、いつも身近に彼らの気配を感じる日々を送っています。

 友人たちと、米づくりをしていた時のことです。手間ひまかけてやっと新芽が出ると、シカに食べられ、稲が実るとイノシシに食べられ……。農家の人が害獣駆除をする気持ちが分かる気がしました。田んぼの周りには獣よけのネットを張り巡らせてあるのですが、ある時、子ジカがそのネットにからまっていました。暴れまわってとても近づけなかったのですが、何とか二人がかりで逃がしてやることができほっとしました。11月15日から3ヵ月間猟が解禁になります。友人が猟をしていてイノシシやシカが獲れるたびに持ってきてくれるので、大切においしくいただくことにしています。

 ある時は愛らしく感じたり、かわいそうに思ったり、またいまいましいこともありますが、季節の移ろいと共に能勢で生活する中、これからも様々な形での出会いがあることでしょう。
 動物にとっても人にとっても、豊かな能勢の自然が守られていくことを願っています。

(いのうえ たかし)