ワークショップには、動物園の利用者が求める、理想的な解説パネルを考えるため、動物園の利用者である市民のみなさん、学校や社会教育施設の教育関係者、そして全国の動物園・水族館職員など、総勢48名の参加者が集まりました。筆者は運営スタッフの一員として参加させていただきましたが、多くの経験や発見をすることができました。ここではそのお話を簡単にさせていただきます。
来園者の興味はどこに?
動物解説パネルを作るにあたり、参加者は9つのグループに分かれて、来園者の興味がどこにあるのかを調査しました。ふつう動物園・水族館の解説パネルは、職員同士で相談して作られることが多いのですが、それでは分からない部分があることも事実です。今回は短い時間での調査なので十分とはいえませんが、調査の結果次第で、解説パネルの善しあしが決まることもある大切な作業であり、どんな解説パネルを作るのか、夢が果てしなく広がる作業でもありました。
夢中になったパネル製作
来園者調査の結果から、グループで作る解説パネルの内容や対象とする年齢層が決められ、解説パネルの製作へと作業が進みました。この作業では、すぐに解説板を作りだすグループもあれば、入念に話し合いをしてから製作に取りかかるところもありました。東京から参加しているスタッフによれば、関東地方でこのようなワークショップを実施すると、製作に取りかかるまでに、グループ内で時間をかけた話し合いがあるそうですが、関西地方では話し合いもそこそこに、製作にとりかかるグループが多いとのことです。さすが関西と喜んでいいのかどうか分かりませんが、地域による差があらわれた、人間行動学的にもかなり面白いところがみられたようにも思います。
1日目の作業が終わり、それぞれに凝りに凝った解説パネルができてきました。未完成のグループもありましたが、2日目の早朝から作業に取りかかるグループもあれば、自宅に持ち帰って作り続ける人もあるなど、その熱意には感心するばかりでした。もの作りは日本人の得意とするところですが、ここにもその片鱗をみることができるのかもしれません?
来園者の反応は?
2日目は、できあがった解説パネルを動物舎の前に設置し、来園者のようすを調査しました。まだ肌寒い、平日の午前中、来園する人がいるか気がかりでしたが、幸い幼稚園や保育園の子どもたちが多数来園されていたのでホッとしました。しかし、利用者の目は厳しく、製作者の意図どおりに利用されている解説パネルもあれば、思うように利用されないものもあったりさまざまです。
なかには、絵本に登場するヤギのおかげで、人気を集めた解説パネルもありましたが、自分たちの思いを込めて作った解説パネルが、どのように利用されるか、製作者のみなさんには、新鮮な驚きと発見があったことと思います。
意見交換会で見えてきたもの!
意見交換会では、各グループごとに解説パネルの製作意図と、調査結果にもとづいて、解説パネルの評価をしていただきました。その結果、来園者の利用が製作意図どおりではなかったと報告するグループが多くみられ、利用者ニーズの把握が難しいことを実感することができました。その反面、どこを改善すべきなのかが明らかになり、解説パネルに秘められた可能性へ、夢ふくらますこともできました。また話し合いの中で、「利用者の視点」という言葉が何度も出てきました。利用者の視点に立つということは、いうのは簡単なのですが、それはきわめて難しいということが、スタッフを含め参加者全員で胸に秘めたことだと思います。この他、技術的なところでも多くの意見がでてきました。解説パネルに求める機能には、興味を喚起する仕掛けが大切であること。幼稚園や保育園の子どもたちに利用してもらうには、引率する先生にいかに関心を持ってもらうかがポイント。利用者の知的要求の進展にあわせて、展開していくような解説パネルがあれば利用しやすいなど、動物園や水族館が解決すべき課題も投げかけられました。
おわりに
今回のワークショップを開催するにあたり、運営する側には2つの目的がありました。それは、動物園の利用者である市民のみなさん、学校や社会教育施設の教育関係者、そして動物園・水族館の職員が一堂に集まり、異なる立場から意見を交換することで、さまざまな視点から解説パネルの機能と役割を考えてみるというものです。2つ目には、参加された動物園・水族館の方が、自分の園館でもこうした活動を実施し、実施するときの参考になればというものです。この2つの目的が達成できたかどうかは、これからの動物園・水族館の活動にその答えがあると思いますが、このワークショップで得ることができたものが、参加された方のこれからの活動に、少しでもプラスになればこれに勝る幸せはありません。
末筆ですが、短い時間の中で多くの作業をしていただいた、ワークショップ参加者のみなさま、会場をお貸しいただき、多大なご協力をいただいた天王寺動物園の中川園長はじめスタッフのみなさま、講師をお引き受けいただいた松本朱実様、高見一利様、尾崎公子様、小山琴子様、酒井礼子様、山本一馬様、小笠原あや様、全体の調整をしていただきました宮下実様に感謝を申し上げます。
(まつだ まさなり)
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