それはクリスマス前の出来事でした。『トナカイの鼻が赤い理由を知ってますか。』と質問され、僕は少なからず衝撃を受けました。
『トナカイの鼻って本当に赤いの?』という何色かわからんタイプの質問はありましたが、この質問は『赤い』になってしまっているんだから、両者の間には大きな違いがあります。ご存じかどうか、トナカイの鼻は『赤』くはありません。なのに何故みんなは『赤い』と信じ込んでいるのでしょうか。その理由を調べてみました。
 世界一有名な赤鼻のトナカイは『ルドルフ』という名前で、1939年にシカゴのモンゴメリ−・ウォ−ド・デパ−トのクリスマス商戦用のキャラクタ−として登場しました。誰もが知っているあの歌は、1949年に登場しています。この『ルドルフ』は単なるキャラクタ−として登場したのではなく、デパ−トの専属コピ−ライタ−のロバ−ト・メイという人が『真っ赤なお鼻の〜』の歌のあの物語を作りました。驚いたことにこの『赤鼻のトナカイ』にも原形になる話しがあったのです。日本でこそあまり知られていませんが、欧米では桃太郎さんくらい有名なクレメント・ム−アの『クリスマスの前の夜』(ナイトメア・ビフォ−・ザ・クリスマス)がそれです。ここには8頭のトナカイ(もちろん、名前がありますよ)が登場しています。メイ氏の奥さんは不治の病でした。「どうしてうちのママは他のママのようにクリスマスの準備をしてくれないの?」という娘に、他と違うことが悪いことじゃないんだというのを伝えるために9頭目の『赤鼻のトナカイ』を登場させ新しい物語に作り変えたのです。そして上記のキャラクタ−、絵本になりのちにテレビの人形アニメ−ションの大ヒットでキャラクタ−として不動の地位を確立し、まさにメイが愛する娘に伝えたかった言葉のように笑い者の『ルドルフ』は歴史に残るトナカイになったのです。おまけに他のトナカイの鼻まで赤くなってしまいましたが…イメ−ジというのは恐ろしいもので、今では『トナカイの鼻は赤い』が普通になっているようですね。
 トナカイという地味な動物をメジャ−にしたという功績を考えると、鼻の色が違っていてもいいかなっていう気もしますけどね。それにしても、メディアの影響ってすごいですね。

 

トナカイについて
 

トナカイ
世界の動物・分類と飼育・偶蹄目T:
(財)東京動物園協会発行より

 トナカイ(ウシ目シカ科トナカイ属)はタイガからツンドラ地帯にかけて広く分布し、シカの仲間では最北に棲んでいます。カリブ−・レインディア・トナカイといろんな名前で呼ばれています。トナカイはイヌとともに狩猟民の手によって初めて家畜化された動物と言われています。Reindeerは手綱であやつる鹿であり、トナカイはアイヌ語の『トゥナカイ』に由来し、漢字を当てると『馴鹿(じゅんろく)』となりトナカイと人との歴史を感じることができますね。厳しい寒さの中で生きるトナカイは、冬になると深い雪をほりおこしてハナゴケ類などの地衣類を食べています。北米のカリブ−は『穴を掘るもの』という意味で、これは狩猟民族がいかに動物の習性を熟知していたか感心させられます。他のシカ科と違った大きな特徴は、オス・メス両方に角があることです。角は毎年はえ換わりますが落角の時期が異なります。オスは12月中旬、妊娠していないメスは3月頃、妊娠しているメスは出産後数日で落角します。と言う事は、クリスマスのトナカイってメスってことになりますよね。

(飼育課:早川 篤)