動物たちの歯

ひどい虫歯になった
オランウータンのサブ

 人の歯は、切歯(J:前歯)が上下4本ずつ、犬歯(C)が上下2本ずつ、前臼歯(P:前の奥歯)が上下4本ずつ、後臼歯(M:後ろの奥歯)が上下6本ずつで合計32本です。これを歯式で表すと、J2/2、C1/1、P2/2、M3/3となります。歯は左右対称に生えるので、片側の上下の歯で表します。
 動物たちの歯の数は、様々です。ゴリラやチンパンジー、オランウータンなどの類人猿は人と同じで全部で32本あります。
 家畜では、ウマはオスがJ3/3、C1/1、P3〜4/3、M3/3で全部で40〜42本あり、メスではJ3/3、C0/0、P3〜4/3、M3/3で全部で36〜38本あります。ウマの顔は長いので一つ一つの歯がかなり大きく、また前歯と奥歯の間に歯の生えていない部分があります。乗馬用のウマではその部分にハミ(乗馬用の馬具でウマの口に咬ませ手綱をつけて御するために用いる金属製の道具)を咬ませます。
ウシなどの反芻動物ではJ0/4、C0/0、P3/3、M3/3で全部で32本の歯が生えています。このように上の前歯がありません。
豚ではJ3/3、C1/1、P4/4、M3/3で全部で44本あります。これは哺乳類の基本的な歯の生え方です。
犬ではJ3/3、C1/1、P4/4、M2/3で全部で42本ですが、純血種では歯の数が少ない欠歯や歯の数が多い過剰歯が見られることがあります。
 歯の形は、動物によってかなりの違いがあります。食べる物によってそれぞれに適した形をしています。おおまかにいうと、草食動物の奥歯は平たく臼歯の名のとおり臼のような形をしていて、草をすりつぶすのに適した形をしています。肉食動物には獲物を捕まえるための発達した犬歯(牙)を持っています。また、奥歯の形も臼のような形ではなく山型をしていて肉を噛み切ったり、引きちぎったりするのに適した形をしています。
 鯨の仲間は歯鯨類とひげ鯨類があります、歯鯨類では同じような形の歯が並んでおり、切歯、犬歯、臼歯は形の差はありません。ひげ鯨類は胎児のうちは歯がありますが、生まれてくるときには退化して、代わりに上あごに150〜400枚のひげ板がかさなって並んでいます。このひげは、海水を小さな生物ごと吸い込み、ひげで水をこして吐き出し、えさを口の中に残すのに役立っています。
 歯の生え方もいろいろあって、一代性歯、二代性歯、多代性歯があります。一代性歯は不換性歯ともいい、一度抜けると代わりの歯が生えません。人では親知らず(後臼歯)がこれに当たります。二代性歯は一換性歯ともいい、まず乳歯が生え、抜けた後に永久歯が生えてきます。人ではほとんどの歯がこれに当たります。また多代性歯は多換性歯ともいわれ、生涯を通じて同じ歯が何回も抜け換わります。ワニの歯がこれに当たります。皆さんもイヌやネコを飼われたことがあると思いますが、乳歯が抜けたのを見たことがある人は少ないと思います。これは抜けた乳歯を飲み込んでしまうからなのです。
 動物園の動物は野生とは違った餌を食べているものが多く、さらにはお客さんからあまいお菓子をもらっている場合も多く、中には虫歯に悩まされている動物もいます。写真のオランウータンのサブは虫歯がひどく、上の前歯がほとんどない状態になってしまっています。反応が面白いからとか、美味しい物を食べさせてあげたいのでとお菓子をあげておられると思いますが、動物は自分できれいに歯を磨くことができません。虫歯の治療のため何回も何回も全身麻酔をかけることは、命に関わってくることなので、なかなかできません。また、健康管理のために給餌量を考えて餌を与えていますので、お客さんから余分な餌をもらうと、栄養過多になり、肥満の原因となります。サブがおねだりして手を差し出してきても、絶対に餌やお菓子をあげないでください。

(飼育課:西岡 真)