DNA 生命をつなぐ不思議な糸

 チンパンジーたちが昼間生活している運動場を、リフォームすることになりました。チンパンジーという動物にとっては、地上、樹上の両方が生活の場です。これまでの天王寺動物園の運動場は、1階建ての家にタワーが何本か建っている、という感じでした。そこで、今まで使われていなかった空間に、2階と3階をつくってあげることにしました。また、大阪の暑い夏を少しでも快適に過ごしてもらうために、風通しのよい、くつろげる日陰もたくさんつくります。

 私たちが家をリフォームする時には、こんな間取りがいい、ここに階段があったら使いやすい、窓はどの方角を向いていた方がいい、そんな話し合いをして住み心地の良い家をつくりますよね。ですが、チンパンジーにそれを聞いてみることはできません。ではどうしたら良いでしょうか。そこで、大勢の職員の力を借りて、丸太で仮組みをしてみることにしました。その場所でしばらく仮住まいをしてもらい、実際にチンパンジーたちがそれらをどのように利用するのか、どこが使い勝手が良さそうかを見てみるのです。

 ある朝、運動場にでたチンパンジーたちはびっくり。これまで何もなかった運動場に、丸太でやぐらが組まれていたのです。まずは触ったり、においをかいだり、かじったり、揺すってみたり。みんながそれぞれ点検してまわります。それからおそるおそる登っていきます。登った後も、折れたりしないか手や足で押してみます。みんな驚くほど慎重です。ところがひとりだけ、まったく物怖じせずするすると丸太を登り、うんていのようにぶらさがって渡っていく子がいました。もうすぐ2歳になるレモンでした。躊躇するおとなたちを尻目に、行動範囲が広がりひとりでどこへでも行けるようになったことが楽しくてしかたがない様子でした。この様子を見ることができただけでも、やぐらをたてたかいがあったなぁと嬉しくなりました。また、レモンの運動神経には目を見張るものがあります。手足の握力の強さ。身体のしなやかさ。アクロバティックな動き。どれをとっても私に勝ち目はありません。しばらく見ていても、見飽きることはありません。

 この仮住まいでの行動を参考に、10月初旬までには本格的なリフォームが行われる予定です。丸太では骨組みしか作っていませんが、ここに2階部分の床や、日除けや、ベッドなどがさらに加わります。新しい運動場で、チンパンジーたちがより快適で楽しい毎日を送ってくれることを楽しみにしています。           

(飼育課:中島 野恵)

チンパンジーの母子 チンパンジーの母子
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