|
ハクビシン治療中の筆者
この大きさの動物でも
麻酔をかけて治療します。
|
みなさん初めまして。私は昨年の春に大学を卒業して、4月から天王寺動物園に獣医師として勤務しています。獣医師になって間もないので知らないことが多く、毎日が勉強の連続です。当初、持っている知識といえば大学で習った家畜のことだけでした。ペットの治療は、大学時代に実習などでペットたちの診療を見学したり、検査の手伝いをしたりしていたので、何となくですがはわかっていました。しかし、動物園動物の治療については、大学では習わないので、最近少しずつながらわかってきたところです。そこで、私が感じた、獣医師の目から見たペットと動物園の動物の違いについてお話したいと思います。
まず動物を大きく分類してみましょう。ペット、家畜、動物園動物、そして野生動物、およそこの4つに分類できるのではないでしょうか。みなさんは家でイヌやネコなどのペットを飼っておられますか?そのペットが病気になり動物病院に連れて行ったとしましょう。獣医さんに診てもらう時、どうしますか?おとなしいイヌやネコだったら軽く押さえているだけで、獣医さんは触ったり胸やお腹の音を聞いたり、採血することもできますよね。例え、怖がりで暴れるようなイヌやネコでも飼い主さんや動物看護師さんに押さえてもらえば診察することができます。
では、動物園動物はどうでしょう。彼らは人に飼われていて、ある程度は人に慣れてはいますが、なついているわけではありません。人をまったく知らない野生動物と、ペットの中間ぐらいの存在です。当然、不用意に触ろうとすれば咬みついたり引っかいたりしてきます。確実に診察するためには動物を麻酔しなければなりません。当然麻酔をかけるというのは動物にとってもストレスとなりますし、心臓が弱かったりすると麻酔をかけることで死んでしまうこともあります。だから、麻酔することは最後の手段であって、麻酔をして診察することはできるだけ避けなければなりません。当然健康診断とか、日々の健康チェックも簡単にできることではありません。
では、動物たちの健康はどのようにしてチェックするのでしょう?ペットの病気を発見するためには、食欲がないとか下痢するといったことも重要なポイントですが、一緒に遊んでいると、具合が悪るければすぐにわかりますよね。しかし、動物園動物は触って一緒に遊ぶことはできませんし、そのようなことをすれば、命がいくつあっても足りません。動物園の動物達は、もし野生で暮らしていれば、他の動物に弱みを見せると自分が襲われてしまうため、たとえ具合が悪くても隠そうとします。だから毎日食べるエサの量とか、糞の量や質の観察がとても重要になってきます。体の具合が悪くなってくれば食べる量も減りますし、下痢したり便秘したりすることもあります。つまりエサや糞の状態が園動物の健康を知るうえでの最大のポイントとなるわけです。
しかし、残念なことに、この重要な健康チェックができないことがあります。それは入園者のみなさんがお客さんが動物にエサを与えてしまうことがあるからです。確かにかわいい動物が喜んでエサを食べてくれれば、うれしいものです。でもお菓子などをたくさんもらって健康でいられるでしょうか?高カロリー、高脂肪、高塩分・・・、どれも体にいいわけはありません。しかも、そんなものを食べていたら本来のエサは食べなくなりますし、油っぽいものを食べて下痢することもあります。
動物園の動物とペットとの違いが少しはわかっていただけたでしょうか。みなさんも動物園に来られたら、どうかペットを見る目ではなく、動物園動物を見る目で見てみてください。
(飼育課:佐野祐介)
|