技術交流会(左から通訳、飼育係、獣医師、
団長、飼育係)
 

 天王寺動物園と上海動物園との動物交換も今年で15回目を迎えました。これまで様々な動物が親善動物として入園していますが、今回は上海動物園からチュウゴクオオカミのオス1頭、メス1頭が交換動物として天王寺動物園に3月17日に入園しました。
 一方、上海市からの4名の交流団の皆さんは3月18日に来日されました。メンバーは次のとおりです。

団 長   (Wu Yunchang) 上海市緑化管理局 副所長
獣医師  (Chen Lihua) 上海動物園 動物病院長
飼育係  (Jiang Nanhe) 上海動物園 主任飼育技師
飼育係  (Zhou Feng) 上海動物園 主任飼育技師


 一行は3月24日に帰国されるまで、天王寺動物園はもとより、海遊館、横浜のズーラシア、東京都恩賜上野動物園などを見学され、無事に帰国されました。今回は3月20日に当園の職員とお互いの情報交換を行なった技術交流会の内容を紹介しましょう。

「第15次大阪市・上海市動物飼育技術交流会」
 日 時: 2006年3月20日(月) 13:45〜
 場 所: 天王寺動物園レクチャールーム

●来園したチュウゴクオオカミについて

オス/2002.04.12
     上海動物園生

父親/1998.04.04
     南昌動物園生
母親/1997.04.12
     上海動物園生
メス/2003.04.21
    上海動物園生

父親/1998.04.07
    上海動物園生
母親/1997.04.26
    石家庄動物園生

今回お贈りした個体を含め、その親たちもすべて上海動物園で飼育しており、広さ300u、人工の山や緑によって囲われた敷地で群れで飼育していました。寝室はありますが個室ではありません。産室はあります。
中国国内で飼育されているオオカミはそれほど多くはありません。
主に北西部(人口が少ない地域)で飼育されています。


●質疑応答
天王寺:   オスが非常に怖がりで、餌を入れても人の気配があると食べません。とても人に対し警戒しています。上海動物園でこの個体と飼育係が接することはなかったのでしょうか?
上 海:   常に広いスペースを群れで行動していました。餌は他の個体とともに食べていました。
天王寺動物園では個室に収容されており、あまり広くないうえに、慣れていないこともあって、餌を食べないのではないかと思います。
   
天王寺:   餌の種類、量、パターンを教えてください?
上 海:   牛肉と羊肉合わせて1日に1.5kg(およそ半々ずつ)、通常午前9時ごろに給餌しています。食欲は良好で、骨や活餌は与えていません。絶食日を週に1回設けています。
     
天王寺:   今回の来園した個体に名前はついていますか?
上 海:   名前はついていません。識別は番号で行なっています。
   
天王寺:   犬糸状虫(イヌの心臓に寄生する寄生虫)の予防は行っていますか?また、上海動物園のイヌ科動物で犬糸状虫症が出たことはありますか?
上 海:   予防はしていません。春と秋に駆虫(回虫、蟯虫など)は行っています。オオカミはもとより、他のイヌ科動物でも犬糸状虫症は出たことはありません。
上 海:   日本での犬糸状虫症の発生状況を教えて下さい?
天王寺:   イヌ科動物ならほとんどの種に感染します。蚊が媒介しているので日本では5月〜12月の期間、月に1回予防薬を投薬します。
上 海:   予防薬はどのような薬ですか?
天王寺:   犬糸状虫の予防薬は経口投薬します。それとは別の消化管内寄生虫が検出されましたら餌に混ぜて経口投与します。
   
上 海:   予防接種は行なっていますか?
天王寺:   年に1回、イヌ用の8〜9種の混合のワクチンを接種しています。
上 海:   中国では6種混合ワクチンを使用しています。
   
天王寺:   今回の来園した個体(特にメス)は少し小さいようですが、若いからでしょうか?
上 海:   まだ、これから大きくなります。だいたい4〜5歳くらいまでは成長します。
上 海:   餌は群れで食べていたので、オスの方がメスよりも多く食べていたのかもしれません。
   
天王寺:   今回の来園したオスとメスは同居していたのでしょうか?
また、仲はよかったのでしょうか?メスは繁殖歴がありますか?
上 海 :   同居したことはありません。繁殖歴もありません。ただしこちらに来る前の1カ月間ほどは、隣合わせのオリに収容をしていましたので、仲はいいようです。
   
天王寺:   オスとメスは別の群れで飼育されていたのでしょうか?また、天王寺動物園のオオカミ舎では、何頭まで飼育可能でしょうか?
上 海:   4頭と5頭の群れに分けて飼育していました。天王寺動物園のオオカミ舎では2頭が限界でしょう。天王寺動物園では床はコンクリートですが、上海動物園では土です。
   
天王寺:   群れの大きさはスペース次第なのでしょうか?仲が良ければ狭いスペースでも多く飼育可能なのではないでしょうか?
上 海:   可能だと思います。
   
天王寺   オス方の群れとメス方の群れは交代で放飼場に出していたのですか?
上 海:   300uの敷地を半分に区切って2群を飼育しています。
天王寺:   2つの群れの構成は?
上 海:   4頭の群れの方はオス1頭、メス3頭。5頭の方はオス2頭、メス3頭です。
   
天王寺:   一方の群れに他の群れの個体を入れることは可能ですか?
上 海:   たぶん闘争すると思います。
   
天王寺:   4頭の群れはオス、メスとその子で構成されているのですか?親子で交配するようなことはないのでしょうか?
上 海 :   上位のオスが親となるからその心配はありません。
   
天王寺:   9頭のうち今回こちらに来た以外の7頭のそれぞれの血縁はありますか?
上 海:   今回の2頭はそれぞれ違う群れから1頭ずつ選びましたので、血縁を気にする必要はありません。
   
上 海:   以前、上海動物園から贈ったクロオオカミ(チュウゴクオオカミの黒変種)はどうなりましたか?
天王寺:   1984年に繁殖しました。8頭産まれて、2頭は天王寺動物園で飼育し、他は日本各地の動物園へ出園しました。その後は繁殖せず、各地に散っていった個体も現在では皆死亡しました。
上海動物園のチュウゴクオオカミは一産で最高何頭産まれたことがありますか?
上 海:   だいたい最高でも4頭です、3頭のことが多いようです。
   
天王寺:   上海動物園から来園したクロオオカミは1981年に入園しました。1983年12月ごろ発情があり、翌年の2月ごろに繁殖しました。1月末から人の目に触れないようにし、寝室いっぱいにワラを敷きました。それを利用してオオカミが自分で巣を作りました。夜間はオス、メス別居させました。鳴声で出生を確認しました。しかし、翌日もまた別の声がしたため、異常かと思い中に入って確認したところ8頭生まれていました。3頭が鳴いていて、他の仔はスヤスヤ寝ていました。産児数が多かったので、鳴いている個体はお腹が空いている判断し取り上げ、結局4頭を人工哺育としました。8頭すべて成長し、それぞれ各地の動物園へ出園しました。

●上海動物園の最近のトピックスなど
上 海:   オランダより3頭(オス1、メス2)のゴリラを導入し、うち1頭が妊娠中です。
ブラジルから来たタテガミオオカミが3頭出産しましたが、うち1頭は奇形でした。
   
上 海:   上海動物園正門に地下鉄の駅ができます。それに伴い現在の正門は移転予定で、新たに駅と直結した正門を建設する予定です。
   
上 海:   天王寺動物園と大学の共同研究はどういう分野で行われていますか?
天王寺:   人工繁殖(精子保存、遺伝子保存など)、病理、寄生虫、ワクチン開発、行動観察、CTスキャンなどです。現在、トラの糞中ホルモン濃度測定行なっています。
上 海:   研究費はどれくらいありますか?
天王寺:   大学側の研究費で行っています。
上 海:   上海もそのような方向で動こうと思っています。
ひとまず上海周辺の大学に聞いてみたいと思っています。

予定していた時間では足りないほど活発な議論が行なわれました。全てを掲載できないので一部抜粋しました。

 (飼育課:西岡 真)