1.はじめに
この施設は天王寺動物園において策定された「ZOO21基本計画」に基づき、アフリカサバンナをテーマにした施設として、既に開園している草食動物ゾーンと一体となったサバンナの景観を創り出すことを目的に計画が行われました。
今回は主に肉食動物をテーマにしたゾーンとして整備されていますが、その基本となる考え方は「生態的展示」です。これは動物と共にその生息地のランドスケープ(景観)を再現することで、環境に適応して生活する動物の暮らしを紹介し、これによって動物の生活とその生息地の価値に対する理解を図ろうとするものです。
2.アフリカサバンナについて
基本計画段階では、東アフリカのケニア・タンザニア地域において景観調査が行われ、その調査結果を元に展示シナリオが作られています。そして、動物だけでなく気候や地形、植物や風土など、アフリカサバンナの自然の様々な要素を含めて展示することにより、サバンナの自然について楽しみつつ、深い理解が得られる施設として計画されました。
本計画区のテーマであるアフリカサバンナは、世界でも有数の原生自然の宝庫であり、野生動物とその生息地の保護の重要性が広く認められているところです。特に、多様な大型哺乳動物と、広大な草原が特徴で、今回の展示においては、生息地のランドスケープの再現が重要なテーマとして位置づけられています。
一般にサバンナといえば果てしなく広がる草原のイメージがありますが、実際には草原のほかに、高木林、疎林、潅木林、河畔林、河川、低湿地、段丘崖、コピエ(岩山)など、多様でダイナミックな景観の変化が見られます。そして、そのようなサバンナ景観は、気候や地形、地質などの地理的要因と、この条件のもとに生育する植生とこれらに対応した動物相から成立しています。例えば、サバンナに点在する段丘崖やコピエと呼ばれる岩山などがライオンの寝ぐらであったり、ハイラックスや爬虫類などの動物の生息地になっていることなどが知られています。
3. 肉食動物ゾーンにおける環境デザインの考え方
サバンナゾーンはいくつかのゾーンに分けられていますが、今回の肉食動物ゾーンはその中のコピエゾーンと草食ゾーンの一部が対象エリアとなっています。
コピエゾーンは、サバンナに点在するコピエを展示します。花崗岩が風化してできたコピエは、広大な草原におけるアイランド的存在であり、極めて興味深い動植物の生息空間となっています。また、一部のコピエではマサイ族の民俗文化遺跡が残されています。これらの特徴的な自然を展示すると共に、コピエの岩をライオン、ハイエナなどの肉食動物、あるいはハイラックス等の小動物のバリアーや修景に利用することで、敷地の限られた都市型動物園においても自然でコンパクトな展示空間の形成が可能になります。また、ここでは迫った岩によってコピエに入り込んだような景観の演出を行っています。
動物展示ではガラスバリアーのビューイングシェルターを設けて間近に迫るライオン、ハイエナの展示を行うことや、モート(堀)を活用しながら肉食動物の背後に草食動物が同時に見られる景観づくりを行っています。
また、草食ゾーンに面したコピエの一部を利用したテラス空間からは、広がる草原を望むことができるように設計を行っています。運が良ければ、目の前に迫るキリンと遭遇できるかもしれませんよ!?
4.サバンナゾーンにおける仕掛けやメッセージ
動物園内の様々な職種から構成されるプロジェクトチームと設計や工事関係者が会議を重ねながら作り上げてきたサバンナゾーンにおいて、その施設の中には様々な仕掛けやメッセージがおり込まれています。
例えば、サインパネル計画では動物園ならではの発想で、地球環境問題への問いかけが組み込まれています。またエンリッチメント(動物福祉)計画では、擬岩内へのヒーター埋め込み、スポットクーラー、水浴び場の設置、餌投入口、ブラウジング用の餌やり場の設置などを行っています。さらに施設計画では、ライオン、ブチハイエナ、ハイラックスの飼育施設以外にボールニシキヘビの飼育施設の追加などを行うことで、より質の高い展示環境の創出を目指しています。
5. サバンナゾーン探訪
来園者は、アフリカの国立公園の入口を模した火山岩が積み上げられた丸太ゲートをくぐり、サバンナの景観に分け入ります。フラミンゴの沼沢地、カバ、サイの展示を進み、さらに段丘崖の脇を流れるせせらぎ沿いの道を進み橋を渡ると、アリ塚からちょこんと顔を出したシママングースに出会えます。その先は開放的な草原が広がり、来園者の視点から見上げる位置にいるシマウマ・エランドなどの威厳のある動物の姿を望むことができます。
次にコピエが現れ、その脇のビューシェルターに入るとブチハイエナの登場です。背後には先ほどのシマウマやエランドの姿も見えます。そしてコピエの上へと向かう坂道を登り、ボールニシキヘビやケープハイラックスのいる岩の間を抜け、サバンナテラスへ踏み出すと、視線の先にはキリンなどが悠然と歩く草原の広がりを望むことができます。テラスを引き返し、道を先に進むとライオン発見です。のっそりしているライオンの背後には、先ほどまで警戒していた草食動物たちがやっと周りの草を食べ始めました。
コピエのエリアも終わり、湿地を抜けるとサバンナの水辺です。パピルスの茂る水辺の岩場で、仲むつまじく寄り添うハゲコウの姿に遭遇することができます。水辺の向こう側に広がるサバンナの景観を振り返りながら、ここでサバンナの旅は終わります。
6.都市環境形成における役割
本施設は、新たな動物飼育、展示施設の形成を目指している一方で、計画にあたっては都市環境を形成するひとつの要素としても配慮されています。その手法として、天王寺動物園の歴史と資源である既存樹木の保存に配慮した施設配置を行うとともに、地域環境の向上に配慮した緑の計画も行っています。
(おくがわ りょうすけ)
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