 |
 |
さとう動物病院/院長 佐藤 良彦さん |
|
私はこれまで、アフリカのタンザニアとザンビアに、獣医師として5年間ほど滞在したことがあります。どちらの国も雄大な自然に恵まれ、シマウマやキリン、ゾウやスイギュウ、インパラやヌーなど、おびただしい数の野生動物がすんでいます。
ある日、四輪駆動車を所有する友人と二人で、タンザニアのセレンゲティ国立公園へ動物探索に出かけた時のことです。前日、ンゴロンゴロクレーター国立公園で飽きるほどライオンを堪能した私たちは、セレンゲティでも簡単にライオンを見ることができると、安易に考えていました。しかしその日は、ライオンがいそうな場所を丹念に探しましたが、1頭も見ることができませんでした。「水のあるところにはいるはずだ」と考え、湖に向かいました。しかしそこにもライオンの姿は見えませんでした。友人は私を湖岸に残して、「ちょっとライオンを探してくる」といって、車でブッシュの方へ出かけてゆきました。
深く考えずに友人を見送った私は、湖の岸辺をのんびりと歩いていました。ところが水際の軟らかい土の上に「あるもの」を見つけてしまったのです。それはくっきりと残されたライオンの大きな足跡だったのです。たくさんの足跡から何頭かのライオンが、ここに水を飲みに来たことは明らかでした。そしてそれを見た瞬間、私の心臓は「ドキン、ドキン」と激しく打ち始めたのです。手にはカメラを持っているだけで、武器になるようなものは何もありません。あわてて友人の車を探せども、みつかりません。祈るような気持ちで友人の車が帰ってくるのを待ちました。一人でいた時間はわずか15分ほどでしたが、生身の人間とはなんと弱い生き物であるかを思い知らされました。「もしあのときライオンが現れていたら」と、思い返してみるだけでもヒヤリとする体験でした。そんなことがあって私にとっては、ライオンはやはり「百獣の王」たる猛々しい存在なのです。
(さとう よしひこ)
|
|