大阪は南河内出身の筆者にとって、子供の頃より天王寺動物園は、お気に入りスポットでした。動物園で世界各地の珍しい動物達を通じて、まだ見ぬ大地に生息する動物達の野生の姿を想像していました。また勝手な連想で、たとえば「大人になったらクジャクを飼ってやろう!」とか「近所のゴルフ場でシマウマが芝生を食べとったら、おもろいやろなぁ!」などと考えていたものです。大阪の街で、ちょっとした別世界を連想するのは楽しいことでした。しかし、自然環境研究センターという研究所で、野生動物の保護管理の仕事に就いて、最近の日本の野生動物の現状を調査すると、子供の頃(ころ)の考えが甘かったことを痛感しています。
シマウマは、さすがに大阪の街中で見かけませんが、何だか最近は、外国の動物が日本各地のニュースや新聞で取り上げられることが多くなりました。これらを「外来生物」または「外来種」や「移入種」と表現することがあります。大阪にも、そして全国各地に、捨てられたり、放たれたり、逃げたりした外来生物が生息しています。本来の生息地でない場所に棲(す)みついて、そこで繁殖することを「外来生物の定着」といいます。自然界では、これまでに経験したことがないスピードで多くの種が絶滅の危機に瀕(ひん)しています。その原因は、開発、乱獲、そして外来生物による影響であると指摘されています。現在、日本には2,000種を超える外来の動植物が侵入したとされています。
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アメリカザリガニ |
もはや外来生物の代表!アメリカザリガニだけしか捕れない水田や池も多くなりました。
天王寺動物園でも飼育中のマスク模様の愛らしい顔をしたアライグマは、北アメリカ原産です。軽い気持ちでペットとして飼い始めたのは良いものの、気性の荒い動物のために、捨ててしまう人が続出し、近畿(きんき)圏でも分布を拡大中です。またルアー釣りの対象として人気の北アメリカ原産のブラックバス(オオクチバス)も、大阪に定着した外来生物です。現在、アライグマの目撃情報が報告されていないのは愛媛県のみ、ブラックバスにおいては、全都道府県で野外にて確認されています。
「かわいい動物が身近な環境で、ルアー釣りもできる、ええやんけ!」という声もあるでしょう。しかしアライグマは、各地で農作物を食い荒らし、森林や水辺に生息する日本の昆虫や小動物を捕まえて食べる、つまり捕食力の強い動物です。ブラックバスが生息する湖や池では、ブラックバスが小魚や甲殻類を捕食するので、モツゴやタナゴ、淡水エビ類などの生息数が激減しています。
また天王寺動物園には、大きなネズミも飼育されています。南米原産で水辺生活するヌートリアです。良質な毛皮が採取できるとされ、特に西日本で多く養殖された時期がありました。ところが多産で大食漢のヌートリアは、人間の考えた勝手な用途から取り残されて捨てられてしまい、各地の河川や池沼などの流れが緩やかな場所に生息しています。最近では淀川でも生息が確認されています。これらの外来生物は、特に生態系への影響が強い「侵略的な外来生物」と総称されています。そして「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」という法律によって、特定外来生物に指定され、その拡散を防ぐために、輸入、販売、飼育などが禁止されています。たとえば、IFAR(は虫類生態館)に飼育されているブルーギル、オオヒキガエル、カミツキガメも侵略的な外来生物で、これらも特定外来生物です。特定外来生物には、国内外で大きな問題となっている83種類の動植物が指定されており、それらは許可を得ている動物園や植物園でこそ観察できる生物です。
ところで沖縄のある島で、リゾート会社がインドクジャクを放してしまいました。亜熱帯に位置する沖縄の島々では、インド原産のクジャクも定着し、その数が増加して大きな問題になっています。グリーンイグアナは沖縄県の石垣島に定着し、一方で北海道ではブラウントラウトが日本固有のニホンザリガニを捕食しています。アメリカザリガニ、ミシシッピアカミミガメ、インドクジャク、ブラウントラウト、グリーンイグアナ、外国産のクワガタムシなどの飼育や利用は、法律で禁止されておらず、飼育などに特に注意が必要な「要注意外来生物」です。これら要注意外来生物には、すでにホームセンターやペットショップで大量に販売されているものも含まれています。
手のひらサイズのイグアナが、1年程で全長が1mに達します。大きくなると飼育に餌(えさ)代や電気代も高くつきます。
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ミシシッピアカミミガメ |
ミドリガメとして消耗品のようにホームセンターで取り扱われているアカミミガメも、寿命は30年以上で、30cm程の大きさになることもあります。大量に捨てられたために、国内で最も普通に見かけるカメになり、クサガメやイシガメの生息地が奪われています。
天王寺動物園で、これらの動物の行動や生態について観察してください。すると多くの動物を飼育する難しさも実感できます。動物園には飼育のプロがいます。大きなスペースも確保できます。決して安易な気持ちでペットを飼うのでなく、ペットを飼う前に動物園で、色々な動物達の動き方、餌(えさ)の食べ方など、テレビや本だけでは理解することのできない実態についても観察してください。生き物を飼育することは素晴らしいことです。しかし、その前に必ずチェックする項目は次の3つです。
- どのくらい大きくなるか?
- どう猛でないか?
- どのくらい生きるのか?
動物園では、珍しい動物達の行動や生態を観察できるだけでなく、日本の生態系にとって、大きな問題となった外来生物に関しても、色々な回答や情報を提供してくれます。
「教えて千石先生−外来生物編」 |
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昨年の11月に天王寺動物園、環境省、自然環境研究センターが共同で、外来生物についてのイベントを開催しました。そこでも、参加者から飼育係、自然環境研究センターの千石正一と他の研究員に、活発な意見や質問があり、外来生物に関する認識の高さが伺えました。自然環境研究センターでは、これからも動物園と共同で、このような外来生物について考える機会を作っていきたいと願っています。
(よしだ つよし) |