私は動物が大好きだが、中でもアザラシが好きだ。15歳のころ、漫画でアザラシを見たことがきっかけのように思う。愛らしさはもちろん、海にいるのに哺乳類(ほにゅうるい)というところが、非常に神秘的で魅力的な生き物に感じた。
 そんな時、帯広畜産大学に「ゼニガタアザラシ研究グループ(通称ゼニ研)」があることを知り、受験を決心し、入学した。あこがれのゼニ研の門をたたき、初めて野生のアザラシを見に行った。岬を歩いていると、海面に黒い頭のようなのが見える。「アザラシだ!!」と感動している私に、先輩が「あれは昆布だよ」と言った。結局、初めて見た野生のアザラシは、20倍の望遠鏡で見てもナメクジのようだった。動物園のように間近にはいないのだと、野生動物との距離を感じた。
 ゼニ研はサークルでありながら、研究活動等をしており、主として個体数調査を行っている。アザラシはかわいいだけでなく、鮭(さけ)を食べたりするため、漁師さんにとっては生活を脅かす害獣である。このことは、私が学んだ一番大きなことだ。漁師さんとアザラシの間で何ができるか?人と野生動物との共存について考えさせられ、色々な人の話しを聞けたことは、私の財産となっている。
 卒業後は、生態系に係わる仕事がしたいと考え、地元の下関市に農業技師として就職をした。環境保全型農業や、生産者と野生動物が共存できるような基盤づくりをしたいと考えていたが、理想どおりにはいかない。人々の意識や、費用対効果など課題は山積みであるが、初心を忘れず努力したいと思う。
 ところで、今下関の水族館ではアザラシが妊娠中だ。私も妊娠しており、一方的に仲間意識を感じている。これから出産を通じて、自分も哺乳類だと体感できることがうれしい。
 この哺乳類体験により、動物たちの行動に共感できるものが増えていくのではないかとワクワクしている。
(ひろの ひでみ)

編集部注
下関の水族館「海響館」では2月25日に無事ゴマフアザラシの赤ちゃんが生まれました。