はじめに
 私は2年目の新米飼育係です。今年結婚して10月に新婚旅行でケニアに行ってきました。この季節、首都ナイロビは、ジャカランダというに紫の花をつける大きな木が、日本の桜並木のようにきれいに咲いていました。地図でみればケニアは赤道直下に位置しているのでとても暑いとのイメージがありますが、中央部と西部は海抜1500m以上の高地なので快適な気候です。私たちが巡ったナイバシャ湖、ナクル湖国立公園、アンボセリ国立公園、マサイマラ国立保護区はいずれも標高が高い地域にあるので、豊かな緑に覆われとても過ごしやすい気候でした。また紅海からインド洋にかけてケニアとタンザニアを縦断する大地の割れ目、大地溝帯は3000kmにも及び今も地殻変動の現場であり、毎年2cmも広がっているそうです。遠い将来東アフリカはアフリカ大陸から分断されると考えられているそうです。そのため、この一帯は豊かな地形でサバンナと呼ばれる大平原や5000m級の火山、湖も沢山あります。このような豊かな地形のケニアは、鳥の楽園でもあり沢山の渡り鳥もやってきます。今までに観察された鳥は1089種を数え、この数は鳥類の一割にもなります。

フラミンゴで有名なナクル湖、100万羽以上のコフラミンゴの大群は数km続く湖岸をピンク色に染める ナイバシャ湖は世界有数のバードウォッチングのポイント、大きなモモイロペリカンの数百羽の編隊飛行は圧巻

アンボセリ国立公園のアフリカゾウ
 アンボセリ国立公園で泊まったロッジでは目の前にサバンナが広がり、動物たちの背景にそびえたつアフリカの最高峰キリマンジャロ山(5895m)の眺めは絶景でした。また同公園のオブザベーションヒルという展望台も絶景でした。キリマンジャロ山を望み、果てし無く続くサバンナと大空の広大な空間に、雲が飛行船のように迫ってきて、雨を降らせながら虹を作っている、といった眺めはすばらしいとの一言でした。アンボセリは開発ですみかを追われたアフリカゾウが安住の地として選んだ場所です。ゾウの大家族は見ていて飽きることはありません。子ゾウがご機嫌な様子で頭を振りながら母親について歩く姿や、生まれたての赤ちゃんゾウを世話する兄弟のゾウ、兄弟げんかの仲裁にはいるゾウなど、会話が聞こえてくるような光景を見せてくれました。近年は地球温暖化の影響でキリマンジャロ山の万年雪も融けてきました。また砂漠化も進んでいてゾウの密集が砂漠化に拍車をかけているそうです。

アンボセリの湿地帯では、様々な動物が集まってきます 湿地帯に向かっているアフリカゾウの大群、39頭いました

オグロヌーの大移動
 ケニアには雨期と乾期があり、この季節の変化が有名なオグロヌーの大移動に深く関係しています。ヌーの故郷はマサイマラの南にあるタンザニアのセレンゲティー大平原です。この辺りは10月〜12月頃が小雨期で1〜2月頃は小乾期になります。ヌーたちは1月から2月にかけて一斉に子どもを産みます。この時期は草が茂り母親は栄養をたっぷりととって子供に乳を与え、乳離れした子供はやわらかい若草を食べます。3月〜6月頃は大雨期で草が良く生えます。草の上部をシマウマ、中部をヌー、下部をガゼルがと食いわけし、シマウマが引っ張る感じで北上していきます。7月頃〜10月半ば頃が乾期ですが、マサイマラには大雨期に降った雨で沢山の草があります。ヌーたちはマサイマラを目指します。途中ワニがいる川が幾つもありますが、食料を求めて決死の覚悟で川を渡ります。我先に渡ろうとパニックになるので沢山の犠牲が出ます。ようやくの思いでマサイマラにたどり着き約3カ月間ここの草を食べます。ヌーは嗅覚に優れ数十km先の雨の臭いがわかるそうです。そして小雨期の季節故郷のセレンゲティーに帰って行きます。昨今は気候の変動が激しく雨期が遅れたりするので、ヌーの動きも読みづらくなっているそうです。 150万頭以上のヌー、20万頭以上のシマウマ、50万頭以上のガゼル達のこの大移動は一斉に移動するのではなく幾つかのグループに分かれていくようです。私たちがマサイマラを訪れたときは既に旅立った群れや、北部の方で未だ川を渡っていない群れがいました。最大級のヌーの群れは見ることができませんでしたが、それでもその数の多さはすごいの一言です。

長い列を作りセレンゲティー平原に向かうオグロヌー 9月頃にタンザニアへ戻っていった時の川渡りの犠牲者

おわりに
 私は天王寺動物園で1年目はアフリカサバンナゾーン、今年は鳥の楽園を担当していますが、アフリカで自分の担当した動物を見ることができて感激しました。サファリではいろいろな動物を見ることができましたが、特にうれしかったのがクロサイです。クロサイは視力が良くないのですが、嗅覚と聴覚はよく縄張り意識が強くて考えるより先に突進してきます。天王寺動物園のンザビ国立公園でトミー君とサッちゃんの角突きを見た人はそのすさまじさをお解かりだと思います。近くにアフリカゾウがおり、ゾウも鼻を上にあげ気配を感じ取っていました。しかし何も起こらずクロサイは茂みに入っていきました。クロサイとゾウの間に会話があったような気がしました。

耳と鼻を聞かして辺りの気配を感じているクロサイ 茂みに入っていったクロサイはなかなか見つからない

 

(上野 将志)