遠い昔、ニュージーランドの森の神様は、病気になった大木の枝で羽を休めている鳥たちに向かって、こうお願いしたそうです。
「このままだと折れてしまう。だれか下に降りてくれないか」
みんな冷たくて暗い地上を嫌がりましたが、キーウィだけは言うことを聞き、おとなしく木を降りました。二度と太陽を見られず飛ぶ力も失った代わりに、森の神様は、キーウィをみんなに愛される鳥にしたといいます。
これは先住民のマオリ族に伝わる神話ですが、私は去年、教育関連の取材で現地に行ったとき、ガイドさんから教えられたこの話がとても印象に残りました。というのも、ニュージーランド人は自分たちのことを「キーウィ・ピープル」と呼び、キーウィという単語を「ニュージーランドの」という意味で使うほど、この鳥を誇りにしていたからです。甘酸っぱいキーウィ・フルーツも、国を代表する果物だからと名づけられたそうです。
鳥のキーウィは茶色く丸い体をしていて、美しい羽根を持つわけでなく、きれいな声で鳴くわけでもありません。夜行性で怖がりなので、私たちの前にもめったに姿を見せません。カロリ野生生物保護区という自然を丸ごと保存している公園を見学したときも、残念ながら見られませんでした。
帰国して天王寺動物園を訪ね、夜行性動物舎で初めて会うことができました。つがいの2羽とも丸々としてかわいらしく、長いくちばしでえさをつつく姿がとてもユーモラスで、時間を忘れて眺めていたのですが、思い浮かべたのはニュージーランドで出会った人々のことでした。
ニュージーランド人は物腰の柔らかな人が多く、なるほどあの美しい神話を語り継いできた国民だと改めて納得したのです。本当は、同じ島国で神話を大切にする私たち日本人こそ、「キーウィ」の精神を見習わなければならないのかもしれない、と思いながら。
(おのぎ やすお)
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