長生きすること、させること。

 新しい年を迎え、昨年を振り返ってみると、皆さんに親しまれた動物の訃報が続きました。7月にライオンのネルとアミメキリンのハルミが、9月にはニッポンツキノワグマのプーコとボルネオオランウータンのサツキが、11月にはアミメキリンのケニヤがそれぞれ亡くなりました。どの動物にも共通していたのは、お年寄りだったということです。みんな天王寺動物園で長い年月を過ごし、天王寺動物園の顔として活躍してくれました。亡くなってしまったことは残念ですが、よくぞ長生きしてくれたという気持ちもあります。

治療のためのトレーニングをしていたアミメキリンのハルミ。奥で見ているのはケニヤ。

治療のためのトレーニングをしていたアミメキリンのハルミ

奥で見ているのはケニヤ

 

 昨年の春頃、天王寺動物園には高齢動物が多いという内容の記事が新聞に載りました。「ご長寿動物園」で売り出せば?というご意見もいただきました。飼育している動物が長生きしてくれるのは、嬉しいことです。寿命を全うしてくれることが嬉しいだけでなく、今後同じ種を健康に飼育していくための様々な手がかりも与えてもらえるからです。

 野生動物の飼育を続けていくことは、簡単ではありません。命あるものはいつか死んでしまいます。飼育する動物の数を保とうとすれば、減ってしまった分を補わなければなりません。補うためには、子を産んでもらうか、他から持ってくるしかありません。多くの種で繁殖を目指した取り組みを進めていますが、うまくいっていない種もありますし、減ったときに都合よく産んでくれるわけでもありません。とにかくたくさん産ませればよいのかというと、残念ながら動物園のスペースには限りがあるため、それ程多くの動物を抱えることができません。他から持ってくるにしても、多くの野生動物がその生息数を減らしている中で、野生から捕ってくるということはほぼできません。実際のところ、ほかの動物園とのやり取り以外に持ってくる手段は無いのですが、いつでも必要なときに必要な動物を提供してもらえるほど都合よくはいきません。結局、いつも動物の維持には苦労することになります。ですから、飼育動物が長生きしてくれると助かりますし、長生きしてくれるように努力しなければなりません。

 野生では、高齢の動物はそれほど多くありません。少しでも弱ると、餌がとれなかったり、他の動物の餌となったりして、厳しい自然の摂理の中で命を落としてしまいます。動物園では、弱っていても餌は手に入りますし、命を狙う外敵もいません。飼い方が十分に研究されている種では、野生の状態よりずっと長生きさせることができます。その結果、野生では見られない状態が生じることがあります。高齢化です。

 多くの種では、ある程度の年齢に達すると、子を産むことが難しくなります。高齢化するということは、子を産まない動物が多くなるということです。前にも触れましたが、動物園のスペースは限られています。高齢動物が増えるということは、子孫を残せる若い動物のための場所がなくなるということでもあります。そうなると、いざ繁殖を目指そうとしても子を産める動物がおらず、結果として、動物が減っていくということになりかねません。

 もちろん、長生きしてくれることは大切なことで、私たちはそのために最大限の努力をしなければなりません。高齢化という動物園ならではの問題もありますが、解決策を見つけ出すことはできると思います。飼育するスペースをより多く確保することも、その一つです。例えば、クロサイとシロサイの両方を飼育していたなら、どちらか一方だけにしてその分スペースを増やしたり、多くの動物園が同じ種を飼育することで全体としてその種の飼育スペースを増やしたり、といったことなどが考えられます。どこの動物園に行っても同じような動物しか見ることができない・・ということになってしまうかもしれませんが、そこは動物たちのことを考えてご容赦いただきたいところです。

 あの手この手を使って、とにかく飼育している動物たちには長生きしてもらいたいと思います。

 

(高見 一利)