天王寺動物園では雄のレオとその娘のチーの2頭のライオンを飼育していましたが、レオは1992年生まれで20歳、チーも1996年生まれで16歳と共に高齢になったので、新たに若いライオン捜していましたが、昨年の11月19日に3頭の若いライオンが和歌山県のアドベンチャーワールドから来園しました。
新たなライオンを迎えることになり、担当者一同、大喜びしたのですが、浮かれる気持ちを抑えて、やるべきことがたくさんありました。まず、収容する部屋を決めなければなりません。古株のレオたちと新入りを一緒にすることができないので、交互展示になります。限られた部屋数にどのように部屋割りをすれば作業をスムーズに行えるか、ライオン同士でもめたりしないか、もしもめたときはどのような対策をとればいいか、危険個所はどのように補修するかなど検討しました。部屋と部屋の間はスライド式の格子扉になっています。ライオンの爪は鋭いので、格子越しであっても傷つけあうので、取り外し可能な鉄板を特注で作りました。
次にレオたちが長く使っていた部屋を変更しなければなりません。人間でいえば引っ越しですが、いきなり違う部屋に移動させてはストレスがかかったり、収容するときにいつもと違うので、なかなか入ってくれなかったりするので、徐々に徐々に慣れてもらうため作業を根気よく行うことで、レオたちに慣れてもらいました。
次に新たなライオンの搬入作業ですが、猛獣の中の猛獣なので、ミスがあれば大変な事態になります。一人ひとりに役割を分担し、シュミレーションを繰り返して、不備がないか確認する作業を徹底しました。例えば、ライオンを運搬する輸送檻を実際に使いスタッフがライオンがわりになって中に入り、作業の工程を確認しました。
新たに入園するライオンは雄が3歳、雌2頭は共に2歳ですが、体重はこの年齢でも雌で100kg前後、雄では100 kgを超えます。輸送檻には2人のスタッフが入り、中で激しく動いてもらい、搬入する部屋への固定法の確認や、ライオンが前足を出したりする隙間がないか確認しました。また、1頭を収容するのにどれくらい時間がかかるか計り、安全性とライオンにストレスができるだけかからないように時間短縮をはかるため、シュミレーションを重ねました。
努力の甲斐があって、本番のライオン搬入当日には、スタッフの息もぴったり合い、ミスもなくスムーズにライオンを搬入することができました。ちなみに搬入時に測定したライオンの雄が167.2kg、雌が93.6kgと89.2kgで運搬檻を加えると約200kgになり大変苦労しました。
入ってきたライオンは、長旅のせいか、ネコ科だけにネコをかぶっていたのか、大変おとなしく、人間にも慣れている印象を受けました。新着動物は約1カ月の検疫を行います。この間ライオンたちは屋外の放飼場には出さず、部屋に閉じ込めたままにします。部屋は狭くスペースは限られ、床はコンクリートなので、中で動いたときに肉球の同じ部分をずっと使うので、床とこすれて肉球から出血するので、床にワセリンを塗りました。
検疫期間中に、写真入りのポスターを掲示して入園者の皆さんに愛称の投票をしてもらいました。その結果、3歳の雄はガオウ、2歳の雌はルナとモナカに決まりました。飼育担当者は、この間にライオン達の行動や便の状態を観察して、個々のライオンの性格や餌の好みを観察し、飼育方針や餌の量を決めました。性格はアドベンチャーワールドで大事に飼育されていたので、人にもよく馴れており、性格もよく、飼育しやすいライオン達です。餌は若干痩せているようなので、肉付の良い均整のとれた体格の迫力ある体型を目指して、古株のレオ達の餌の量を基本に、徐々に増やしていくことにしました。
無事に検疫が終了し、初めて放飼場に出す時がきました。放飼場には脱出防止のため高電圧が流れている電柵が放飼場の周囲に張ってあります。まずライオン達にこの電柵に触れさせ、ここから先には行けないことを学習してもらう必要があるので、電線が分かりやすいように電線にテープを取り付けました。ここでは3頭の性格の違いが出ました。一番最初に電柵に触れたのは好奇心旺盛でおてんばのルナでした。二番目はガオウ、三番目はモナカでした。私自身も何度か電柵に触ったことがありますが、かなり激痛を感じました。彼らにも相当なダメージがあったと思われます。しばらく、ライオン達はショックでへこんでいました。一番立ち直りが早かったのはやはりおてんばのルナで、次にモナカ、ガオウの順でした。一度電線に触ると二度と近付くことはありませんでした。
次に“おやつタイム”の練習です。ライオンは野生では力の強い雄が獲物をまず独占しますが、放飼場で餌の鶏肉を与えると3頭のなかで一番頑張ったのはやはり予想どおり雄のガオウで、鶏肉を入れるとルナが最初に飛びつき咥えたのですが、ガオウがルナを追いかけ回し、奪っていきました。今では雌たちはガオウの力を認識し、後ろで待つ状態に落ち着きました。
現在、古参のレオ達と交互に展示していますが、やはり若いライオン達は元気いっぱいで、夕方になり部屋に収容した後に一斉に吠えるのですが、これまではレオが一番大きな声で鳴いていたのですが、今ではガオウの声が響き渡り、レオの声は聞こえてこなくなり、世代交代を実感しました。しかし、まだまだ、レオ達には現役で頑張ってほしいと思っています。
担当者一同もライオン達の迫力やほのぼのとした姿をご覧いただけるように頑張りますので、皆さんもぜひ年を重ねて風格のあるレオ達と若くて初々しいガオウ達に会いに来てください。
(町出 猛)
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