“鳥の楽園”での繁殖


 “鳥の楽園”では、約20種200羽以上の水鳥たちを飼育しています。今回はこの施設での鳥の繁殖について紹介します。

 鳥たちは、早春を迎えるとつがいを形成し繁殖の準備を始めます。まず、つがいを見つけるのが一苦労します。マガモ、オシドリ、カルガモ、サカツラガンは、雌よりも雄の数が多いために雌の奪い合いが始まります。雄同士の嘴(くちばし)でのかみ合いや水への沈め合いの激しいケンカやしつこく雌を追いかけるなど、えさを食べる時間もないほどです。あまりに激しい場合には、捕獲して隔離してやらないと衰弱してしまうほどです。

 やっと。つがいになり、巣作りを始めるのですが、これにも苦労します。ガンカモの仲間は、人目に付かない物陰や茂み、樹洞などに営巣するので人工の巣箱や板を立てかけて目隠しにしたりするのですが、鳥たちにも好みがあるらしく人気の物件は奪い合いになります。せっかく産卵を始めても、途中で他のつがいに横取りされたり、卵を放り出されてしまったりと、なかなか落ち着いて抱卵することができません。

自然ふ化したキンクロアジロ
自然ふ化したキンクロアジロ

 

 そこで、動物園では、飼育員が、卵を回収しふ卵器に入れてふ化させる人工ふ化育すうを行っています。ふ卵器とは、親鳥の代わりに、卵を37.6度に温め、1時間に1度、転卵を行う機械です。(転卵とは、親鳥が卵をむらなく温めるために嘴(くちばし)で転がして向きを変えることです)ふ卵器に入れて約1カ月でヒナがかえります。かえったヒナは、保温用の電球で温めることのできる育すう箱に移します。育すう箱で約1カ月ほど過ごし、今度は育成舎と呼ばれる施設で一人前になるまで育てます。

ふ卵器
ふ卵器
ふ化中のヒナ
ふ化中のヒナ
育すう箱の中のヒナ
育すう箱の中のヒナ


 この人工育すうの様子は、来園者の方々にはご覧いただけないので、本来の繁殖行動・成長過程を展示施設内で見ていただくために、親鳥による自然育すうにもチャレンジしていますが、これがまた、難しいのです。せっかく無事にふ化したとしても、なかなか成鳥まで育ってくれないのです。施設内で飼育している鳥の中には、ウミネコやシュバシコウのような小動物や鳥のヒナを食べてしまう種類もいます。そして、理由は分からないのですが、同じ種類の鳥が、泳いでいるヒナ鳥を沈めてしまう行動がみられるのです。冒険心旺盛なヒナが少し親鳥から離れてしまうと危険だらけなのです。そのような訳で、たとえ10羽のヒナがふ化したとしても、親鳥が守ってあげられるのはせいぜい1〜3羽ぐらいです。

 他にも、春先の異常気象などの自然現象によっても産卵数が減少したり、受精率やふ化率が低くなったりします。私たち飼育員は1羽でも多くのヒナが育つように努力しています。

 

(尾曽 芳之)