フンボルトペンギンの子育て


 ペンギンは、コウテイペンギンのように南極大陸に生息するものから、ガラパゴスペンギンのように赤道直下に生息するものなど、南半球の広い範囲に19種類のペンギンが生息しています。

 その中で、天王寺動物園では「フンボルトペンギン」「オウサマペンギン」の2種類を飼育しています。オウサマペンギンを見てコウテイペンギンと間違っておられる方がいますが、天王寺動物園にいるのはオウサマペンギンです。

 フンボルトペンギンは、鳥綱・ペンギン目・ペンギン科・フンボルトペンギン属に属するペンギンで、ペルーからチリにかけての南アメリカに生息しています。繁殖期には、地面にトンネル状の穴を掘って巣を作り、卵を産みます。卵はたいてい2つで孵化(ふか)日数は約35日から45日です。

 オウサマペンギンは、コウテイペンギン属に属し、南大西洋・インド洋の亜南極の島々に生息しています。体長は80cm以上、体重約10kgを超えます。繁殖期には1つの卵を産み、脚の上にのせて腹部の皮で卵を覆いかぶせ温めます。天王寺動物園でも8月ごろには産卵し、卵を温めているところを観察できると思います。

 今回は、今年の繁殖シーズンが終了したフンボルトペンギンの子育てについてお話しします。

 天王寺動物園では今年2羽のフンボルトペンギンが無事に孵化(ふか)し、順調に育っていますが、実は、産みの親と育ての親が違います。

 産みの親は、1994年1月に当園で孵化(ふか)した雄と2002年5月に当園で孵化(ふか)した雌です。フリッパー(ペンギンの翼)の付け根に黄色の帯状のものを巻いています。

 このペアが2012年12月13日と17日に産卵しましたが、年が明けた1月3日に抱卵をやめてしまいました。この親は毎年産卵するのですが、ヒナが孵化(ふか)しても踏みつけたり、餌(えさ)を与えなかったりと、非常に子育てが下手です。昨年は1羽をなんとか巣立ちさせました。普通、ヒナが巣立ちしてからも自力で餌(えさ)を捕獲出来るようになるまで面倒をみるのですが、巣立ちしてからほったらかしにしたためヒナが倒れました。強制給餌(きゅうじ)を行い、事なきを得たのですが、本当に世話のかかる親です。

 次に育ての親ですが、2006年5月と2008年3月に当園で孵化(ふか)したペアです。
 このペアは12月5日と11日に産卵し抱卵をしていました。しかし、実はこのペアからのこどもは近親繁殖になりますので、通常孵化(ふか)する前にどこかで擬卵とすり替えを行います。フンボルトペンギンは非常に雄と雌の結びつきが強く、人間の手によって半年ぐらい別の場所で飼育しても一緒にしたとたんペアを形成してしまいます。

 今回は、擬卵の代わりに、親から抱卵を放棄された卵と交換しました。自分のこどもたちと思って一生懸命子育てを行ってくれていますが、実は他のペアのこどもなのです。

 すり替えられた2個の卵は、1月30日、2月2日にそれぞれ孵化(ふか)しました。抱卵を放棄されたからなのか、孵化(ふか)日数は予定より遅れ、48日、47日かかりました。

孵化(ふか)したてのヒナ

孵化(ふか)したてのヒナ


 育ての親ペアは近親繁殖となるため、今まで子育ての経験が無く、今回が初めての子育てになります。卵を産み、子育てを行なっているときはペンギンも他の動物でも同じで、飼育係が近寄ってくるとこども(卵)を守ろうと非常に敏感に反応します。孵化(ふか)をしたからといってヒナの確認を頻繁に行うとストレスとなり、踏んづけたりというような事故が起こってしまうことがあるので、1日1回時間を決めてヒナの状態を確認するようにしました。

筆者を警戒する親鳥とヒナ

筆者を警戒する親鳥とヒナ


 孵化(ふか)してからは順調に成長し、4月2日に確認した時、フリッパーあたりから換羽が始まっていました。ヒナは通常、孵化(ふか)をした時は茶色の産毛(うぶげ)で覆われ、孵化(ふか)後約80日で水に入れる羽に生えそろって巣立ちを迎えます。そのころには、親は巣の外に立ち、一生懸命に鳴き声をあげ、ヒナが巣立ちするのを促します。そして無事に巣立ちました。

換羽が始まったヒナ

換羽が始まったヒナ


 巣立ちしたヒナは写真のように背面がグレー、腹面がホワイトの羽に覆われ、大人のフンボルトペンギンとはひとめみただけで模様が違い、ヒナということがわかります。

巣立ちした2羽のヒナ

巣立ちした2羽のヒナ

 

 フンボルトペンギンは通常6月後半から7月末にかけて換羽をします。換羽とは、1年間、使ってきた羽を脱ぎ捨て、新しい羽が生えかわることで、このヒナたちも来年の6月後半から7月にかけて換羽します。換羽すると他のフンボルトペンギンと同じ模様になってしまうので、模様では判断できなくなります。

 ヒナが巣立ってからもまだまだ親鳥には仕事が待っています。巣立ちしたヒナが自力で餌(えさ)(天王寺動物園ではアジ、シシャモ)を捕かまえ食べることを覚えるまで世話しなければなりません。ヒナたちは親のくちばしに自分のくちばしを付けて餌(えさ)をねだります。そして親に餌(えさ)を食べさせてもらいながら、親や他のペンギンたちが餌(えさ)をとって食べるのを見ながら、親のまねをしながら学習し、餌(えさ)を捕まえて食べることを覚えていきます。

 ようやく6月20日に最初に孵化(ふか)したヒナが餌(えさ)を捕獲しようとする行動を確認しました。夕方4時ぐらいに親鳥がヒナの横を泳ぎながら、ヒナが水中にもぐり餌(えさ)を捕まえるところをじっと見守っています。
この「なきごえ」が発刊されるころには2羽とも自力で食べていると思います。(食べていないと非常に困ります)
 そこまでヒナを自立させてはじめて、12月から6月の末までの、7カ月にも及ぶ親たちの子育ては終了します。
 天王寺動物園へご来園の際は、ペンギン舎へ立ち寄っていただき、ヒナの様子を直接皆さんの目でご覧になってください。

 また、火曜日から金曜日(振り替え休日の月曜日)の3時30分から「ペンギンのごはんタイム」を行なっていますので、ごはんタイムの中でもヒナたちの様子を報告します。

(岡田 博之)