1999年、初の外国人獣医師として、日本から遠く離れたアフリカの南東部に位置するマラウイ共和国に、たった一人で小動物病院を開業しました。
思えば私が初めて目にしたアフリカは、幼い頃テレビで放映されていたアニメの「ジャングル大帝レオ」でした。白い子ライオンのレオが動物たちのリーダーとなり、他の動物たちと協力し、数々の困難を乗り越えるストーリーです。そこに描かれていたアフリカは、草食獣と肉食獣が仲良く暮らし、人間のような生活を営んでいる姿でした。幼い私は、アフリカは動物だけが暮らす夢の大陸だと思っていました。
小学生になると、週末は必ず友人と電車に乗り、天王寺動物園へ出かけたものでした。目当ては園外の露店で売られている動物フィギュアでした。僅かな小遣いで購入したオレンジ色やピンク色のカラフルな動物たちを操り、日が暮れるまで毎日ジャングル大帝ごっこをし、憧れの大地をそこに描いていました。
大人になり獣医師への道を進んだ私は、協力隊員としてマラウィに派遣され、初めてアフリカの地を踏んだのでした。
自分で見た本当のアフリカは、野生動物より人間の方が遙かに多いのでした。野生の樹木より主食であるメイズの緑の方が多いのでした。アフリカはすでに人間のものでした。勝手に幼い自分が解釈しただけで、本当は昔も今も人間のものだったのかもしれません。町では水洗トイレが整備され、スーパーマーケットで買い物をし、人は犬をペットとして飼っていました。
幼い頃の空想とは大きく違っていましたが、やはりそこにはアフリカの風が吹き、日本にはない時が流れ、人は自然と共に生きていました。簡単な事に時間を要し、日本の常識が通じません。水道から出る水、ハガキが届く、待ち合わせた場所で会える、店で物が買える、日本では当たり前の日常が、ここでは喜びと感動に変わり、やがて達成感さえ与えてくれるのでした。
本当のアフリカは、今日生きていることを実感させ、僅かな事に幸福感をもたらせてくれる、そんな国でした。