●はじめに
今年の4月からアフリカサバンナゾーン草食動物の担当となり主にカバのお世話をすることになりました。現在はテツオ(雄30歳)とお嫁さんのティーナ(雌15歳)の2頭が暮らしています。私は8年前にもアフリカサバンナゾーンの担当をしていました。当時を振り返ってみますと、ティーナはテツオの母親のナツコと一緒に暮らしていて大変にぎやかだったこと懐かしく思い出します。ナツコは残念ながら2010年に37歳で死んでしまいました。ティーナはナツコと一緒に暮らしていて、人懐っこく幼いしぐさが愛くるしかったのを思い出します。今ではティーナは当時より幾分落ち着き、心と体の成長を実感しました。
●水中観察は素晴らしい
天王寺動物園のカバ舎は水中のカバを観察できるようになっています。改めて思うのですがカバの水中での暮らしを観察できることは素晴らしいことだと思います。というのは野生のカバは淡水域で生息しますが、透明度の高い水質で生息しているのはまれで、大半は濁った水質の場所で暮らしています。その上、野生のカバは縄張り意識が強く近づくものに攻撃的で、水中での暮らしを観察するのは難しいのです。カバ舎の水中観察プールでは巨大なろ過装置のおかげで透明度を保ちガラス越しに水中におけるカバの生態を観察することができます。
もう一つのカバ舎の見どころはナイルティラピア(以下ティラピア)との共生です。ティラピアはカバの古くなった皮膚の角質層を食べてくれます。またカバの糞(ふん)も食べてくれるので水質の向上に貢献してくれています。ティラピアとカバはお互いに利益がある相利共生なのです。数百のティラピアの群れとカバの共生は実に見事なものです。

ティーナに群がるナイルティラピア(2013年3月25日)
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●悲しいできごと
毎年6月にカバ舎の池の大清掃を行っているのですが、今年は大変残念なできごとがありました。大掃除は池の水を抜いて行うので、ティラピアを移動しなければなりません。例年通り同じ方法でティラピアを移動し隔離用の水槽に入れて管理しましたが、大半が死んでしまいました。原因は水温上昇を抑えるために一時的に使った井戸水に魚に有害な成分が含まれていたようです。今年の梅雨は極端に雨が少なく地下水の毒性が高くなったではないかと推測します。多くのティラピアを失い、その存在の大きさを改めて知りました。彼らには本当に申し訳ない思いです。
●カバの繁殖の取り組み
天王寺動物園でのカバの飼育は1930年の雌の来園に始まり、繁殖は1969年に初めて成功して以来7頭が成育しています。しかし、現在飼育しているテツオが1983年に生まれて以来、30年以上カバの繁殖がありません。

テツオ
カバの発情は30日周期で2~4日程続き、妊娠期間は約220日です。本当は暖かい時期に生まれるように調整してあげたいのですが、2頭の年齢を考えると時間的な余裕がないので同居は毎月継続してきました。これまで何度も交尾は確認されましたが、妊娠の兆候はありませんでした、しかし、今年の5月の交尾以降しばらく発情がなくなりましたので、妊娠の期待が高まりました。しかし、観察を続けていると9月に発情が観察されました。その後はまた、11月30日現在、発情を確認していません。

ティーナ
9月の発情は何だったのでしょうか?一つ考えられるのが偽発情です。偽発情とは妊娠しているのに発情することです。ウシではよくあります。9月の発情は偽発情だったのかもしれません。妊娠しているかどうかは今後の経過をみないとわかりませんが、出産準備はしておきたいと思います。

テツオとティーナの交尾(2012年12月11日)
●おわりに
カバは水中で出産し、授乳も水中で行います。何よりガラス越しに見てみたいのはカバの子育て風景です。そしてティラピアですがほんの少し生き残っていた幼魚の群れが成長してきています。さらにアフリカサバンナゾーンの大池で飼っていたティラピアを成魚から幼魚まで移動させましたので、かなり数が回復してきました。今後ティラピアがかつての魚群ほどに増えてほしいものです。そしていつかガラス越しでカバの子育てとカバとティラピアが共生する風景を楽しんでいただきたいと思っています。
(上野 将志)
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