さて、みなさん、動物園で働いている獣医さんと聞いて、どんなことを想像しますか?「きっといろんな動物に触れ合えて、看病したりすればもっと動物と仲良くなれたりすんだろうなぁ」って思った人はいませんか?もしくは、そんな風なことにあこがれて動物園の獣医さんになりたいと思っている人はいませんか?今回はそんな人の夢を少し壊してしまうお話かもしれません。(笑)
動物園で飼育されている動物たちは、動物園生まれで野生を知らないことがほとんどです。しかし、決してイヌやネコ、牧場のウシやウマといった、ペットや家畜と同じではありません。ヒトという生き物には慣れてはいますが、ヒトと遊んだりするほど、なついているわけではなく、ヒトへの警戒は怠りません。仮に病気や怪我で弱っていたとしても、我々に弱みを見せることはなく、むしろ隠そうとします。
病気や怪我のとき、みなさんなら病院に行ってお医者さんに診てもらえば、症状が楽になるし治るということは当然知っています。多少痛い注射でも、治るために必要だから我慢しますよね。しかし残念ながら、動物には獣医さんに診てもらったら、しんどい状態から回復するなんて考えはありません。彼らにしてみれば、「具合が悪くて必死にがんばっているときに無理やり痛いこと(注射や捕獲など)をする悪者」というのが獣医さんへの認識でしょう。ただ、同じヒトでも飼育員さんは少し違います。飼育員さんたちは、たまに嫌なことをしてくる(治療の時に獣医さんのお手伝いをしてもらうことが結構あります)けどエサをくれるヤツ。まあ、飼育員さんにも威嚇してくる動物も結構いるので、いいヤツと思われているかは微妙ですが…。
結局のところ、獣医さんは頑張れば頑張るほど、動物には嫌われていくということになります。おかげで私も、園内を歩くとそこら中で動物たちに「何しに来たんや!」、「こっち来るな、あっち行け!」といわれるようになってしまいました。一番わかりやすいのはサルたちです。さすがに頭がいいだけあって、忘れてほしいことをよく覚えています。牙を見せながら威嚇というのが、あちこちのサルで見られます。お客さんに対してはあまりしないのに、私が行ったら威嚇してくるという具合ですので、目撃する機会は少ないかもしれません。
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シシオザル:口を開けて牙を見せながら威嚇してきます
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フクロテナガザル:たまに恨んだりせず仲良くしてくれる動物もいます(笑)
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中には、先輩の獣医さんが以前治療したことがあるだけで、私自身はその動物に一切何もしていないというのに、「あの悪いヤツの仲間や!」と覚えられていて、威嚇してくるなんてこともあります。この代表格はマレーグマのマーズくんです。恨まれる覚えはないのに…。彼の場合、通りがかりの職員には片っ端からという噂もありますけれど(笑)。
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マレーグマ:マーズくんはマーサと一緒になってからはおとなしくなりましたが、
前は私の姿が見えると走り回りながら吠えて怒っていました
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さあ、少し動物園の獣医さんにあこがれていた人の夢を壊しちゃったでしょうか。でも、動物園の獣医さんにとって、動物に嫌われるというのが実は勲章だったりします。ただ、最近動物のストレスを減らしたり、世話や治療をする人の手間や危険を減らすように、トレーニングによって触ったり注射をうったりできるようにする動きが、だんだん広がっています。これについてはまた別の機会にお話しようかと思いますが、トレーニングが広がって、動物にいろいろなことができるようになっていけば、近い将来、獣医さんが嫌われるなんてことがなくなっているかもしれませんね。
(佐野 祐介)
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