飼育員の裏側ウォッチング 5時から編


 天王寺動物園では午後5時になると閉園になり、ほとんどの動物達は寝室で食事をしたり、くつろいだりしていますが、飼育員には、まだそこからひと仕事もふた仕事もあるのを御存知でしょうか??

 まず、動物達を寝室へ収容した後、朝から一日過ごしてウンコやオシッコ、餌の食べ残しで汚れている屋外展示場の清掃をします。動物舎によっては屋外展示場から屋内展示場へ一旦収容し、そこでしばらくの間、観覧してもらいその後寝室へ収容するので、屋外も屋内の展示場も清掃する動物舎もあります。

 毎日ではありませんが、動物舎の池やプールを定期的に共同で清掃します。ゾウ舎(東、西2カ所)・ホッキョクグマ舎・クマ舎・“鳥の楽園”(上池、下池2カ所)・アシカ舎・ペンギン舎・フラミンゴ舎・コフラミンゴ舎・ツル舎・ペリカン舎などに池、プール、堀などがあります。猛獣やゾウなどは危険なので、池を清掃するためには一旦動物を収容しなければなりません。それでは、お客さんが動物を見ていただくことができなくなるので、閉園後に実施しています。

 また、池・プールの広さや季節により作業時間や人数も違ってきます。まず、広さ大きさでは“鳥の楽園”の池が一番で二番目はアシカ池です。夏場と冬場を比較すると圧倒的に夏場の方が汚れはひどくなります。水温も高くなるので、数日経つとコケで水が緑色になるのでホッキョクグマのゴーゴも『白熊』ではなく『緑熊』になってしまいます。ホッキョクグマの毛は透明で中が空洞になっているので毛の中に藻が生えるので緑色になってしまいます。

 夏場のこびり付いたコケなどはいくら擦ってもきれいには取れないので『さらし粉』という漂白剤を散布してコケを落とします。『さらし粉』は食品添加物にもなっていますが、通常は薄めたものが使用されています。動物園で使っている原粉は、刺激臭があり毒性もあります。吸い込んだり、目に入ると危険なのでマスクを着用して作業を行っています。この『さらし粉』を散布する時は閉園後であっても、残っているお客さんがいないかどうかを十分に確認しなくてはなりません。

 夏場は5時以降でも明るいのですが、冬場は5時過ぎにはもう暗くなっているのでライトを取りつけないと清掃ができません。夏場は明るくて作業しやすいのですが汚れがひどく、反対に冬場は暗くて作業しにくく危険ですが汚れは少ないのです。
池掃除以外にも閉園後の作業があります。ゾウ舎の運動場への土入れ作業を定期的に行っています。小型のダンプカーや重機を使うので、ゾウを収容してからでなくてはできない作業です。

 作業の中でも、どの飼育員も一番嫌がってやりたくない作業があります。それはカバ舎の水中観察プールのガラス清掃です。夏場は週2回、冬場でも2週に1回は行わなければきれいな状態でカバをご覧いただくことができません。カバを屋内に収容後、プールに2人の飼育員が入り、水中メガネとシュノーケルを付けて素潜りで息が続く限り潜ってガラスのコケをタワシで落とすのですが、息を止めての水中作業は大変苦しく、夏場は水温も高いのでまだいいのですが、冬場は水温も低くてみんな震えて息絶え絶えです。この作業は年齢に関係なく順番に回ってくるので(といっても私が順番を決めているのですが・・)、ちょっとオーバーですが定年退職前の飼育員からは「ワシを殺す気か!」との声が飛んできます。

 このように飼育員にはお客さんには見えない所で体を張った作業がいろいろとあるのです。

写真

 

(松下 達夫)