身近な生き物たちからのメッセージ

歴代のスターたち

学校法人コミュニケーションアート
大阪ECO動物海洋専門学校
動物飼育系担当 廣谷 あおい


私の職場は、大阪ECO動物海洋専門学校(以下大阪ECO)《旧:大阪コミュニケーションアート専門学校》です。職場であると同時に母校でもあります。そんな母校での私の仕事は、毎年何百人と在籍する学生の夢を叶えることです。夢を叶えるなんて大きく出てしまいましたが、私一人の力で叶える訳ではもちろんありません。まぁ、一スタッフの独り言ですから、ほぉ〜と聞き流していただければ幸いです。 

 そんな私の学生時代の夢といえば、「OCA(現在では大阪ECOと略します)の先生になること」でした。在学中に牧草アレルギーを発症した私は、「動物園の飼育員になる」という夢を諦め、同じ夢を持って入学してくる後輩学生たちに私の想いを託そうと考えていました。しかし、その夢を叶えるためには、「3年間業界で活躍すること」が在学中に決められた恩師とのルール。私は卒業後3年間その夢をあきらめることなく、時間があれば母校に顔を出し、先生方に媚という名の自己アピールをしていたものです。そうして3年の月日が経ち、ある日「お前にまだその気があるなら母校に帰ってこないか」と恩師から電話が入り、私は飛んで食いつき、卒業から8年経った今も大好きな場所で働いている訳です。そしていつからか、私の夢は冒頭の「学生の夢を叶えること」となったのでした。そんなある日、私は出会ってしまうのです…過去、なきごえでも登場された、ビバリウムガイド編集長「冨水 明」氏その人です。奇しくもお近づきになってしまうわけですが、この出会いが私の人生を大きく左右しました。
衝撃の出会いから1年後、冨水氏から紹介されたのが、天王寺動物園の飼育員の方々でした。私は大阪生まれの大阪育ち、幼い頃から動物好きともあれば必然と天王寺動物園ファンでしたので、それはもう興奮の一瞬でした。そんな繋がりから、なんと、動物園と大阪ECOでイベントをしないかという話が持ち上がりました。夢のような瞬間です。さらに、私の夢を叶えてくれた恩師の夢が「天王寺動物園と学校でイベントをする」ことでしたから、私にとっては恩返しをするこの上ないチャンスでもあったわけです。

 そうして2014年夏、は虫類生態館(以下IFAR)でイベントを開催することができました。その名も「〜ほんとに知ってる?身近な生き物たち〜まるまるちゃんとくるくるちゃん」。何のことやら? ですね。まるまるちゃん=ダンゴムシ、くるくるちゃん=カタツムリのふれあい、展示イベントです。夏休みに実施したこのイベントは、自由研究課題の提供をメインテーマとしていましたが、子どもたちだけではなく、大人も楽しめるようなイベントになりました。

 

イベント写真

展示コーナーとは別に、触察コーナーもあり、連日子どもたちで溢れていた。

 子どもの頃、庭先で何気なく目にしていたダンゴムシやカタツムリ。実はたくさんの種類が存在していることや、彼らの不思議な「生態」についてはあまり知られていません。そんな彼らをたくさんの人に知ってもらうことも、イベントのテーマでした。展示したダンゴムシは全てオカダンゴムシ、みなさんが一番目にするいわゆるダンゴムシ、マルムシです。そのオカダンゴムシの色違いだけで11種展示し、中にはパンダのように見えることから名付けられた「パンダンゴ」など珍しいものばかり。そして、カタツムリは9種類、タニシ2種類を展示し、最大3.5cmのヤンバルマイマイや、通常右巻きであるカタツムリとは逆巻きの「ヒダリマキマイマイ」(名前そのままですね)、その青みがかった緑の身体と愛くるしい目が魅力的な「アオミオカタニシ」などを展示しました。

 

左上「アオミオカタニシ」、右下「パンダンゴ」

左上「アオミオカタニシ」、右下「パンダンゴ」
(イベント生体協力、写真提供 奥山風太郎氏)

 さてここで、彼らの不思議な生態について少しご紹介しましょう。

 彼らが海からやってきた生き物であることをみなさんは知っていましたか? 「カタツムリは雨の日に出てくるからなんとなくそう言われてみれば…」 といった感じでしょうか。ダンゴムシは海とさほど関わりなく感じますが、現在一世を風靡しているあの「ダイオウグソクムシ」。彼こそ、ダンゴムシの仲間、実際にはエビの仲間であり、ダンゴムシが海からきた生き物だという証明になる生き物なのです。

 カタツムリの殻や、ダンゴムシの甲羅はカルシウムでできています。ここが昆虫との違い、昆虫は「キチン質」という物質でできています。チキンではありませんよ。キチン質。そのカルシウムたっぷりの彼らを食べる生き物たちに、骨が形成されるようになり、陸の動物へと進化していくのですね。生き物って不思議。  そんな貝類を好んで食べる生き物が、イベント中も微笑みながらこちらを見ていました。

 

天王寺動物園で飼育されているヨウスコウワニ2頭。

天王寺動物園で飼育されているヨウスコウワニ2頭。

  みなさん、ワニの顔って見たことありますか?

 「そんなん、あるに決まってる!」「動物園で見た!」

などと声が聞こえてきそうですが、《じっくり》ですよ。じっくり、ワニの顔を見たことがありますか? 巻貝などの固い貝類を好んで食べているワニは口角が上がり、笑って見えるんです。

さて、IFARの入口を進んですぐ右手には、大きな倒木と水面や地中から突き出した気根が印象的な北米ゾーンがあり、その展示場には体長約2mのミシシッピーワニ(アメリカアリゲーター)がいます。獰猛(どうもう)なイメージがあり、今にも飛びついてきそうですが、実際には人を襲うことはめったにありません。全長4m以上になるこのミシシッピーワニの主食は、小型の哺乳類であり、でも同様の餌を与えているそうです。

そして、奥に進むと聞こえてくるのが、

 「見てー!赤ちゃんや!」

 「ちっちゃいワニさんや!!!」

 「さっきのワニの子どもやろ?」

 そこに見えるのは、ヨウスコウワニ。イベント中もよくこの声を聞いたのですが、赤ちゃんではなく、ちゃんとした大人のワニ。先ほどのミシシッピーワニの半分以下にしか成長しない小型のワニです。主食は、貝類などの固い食べ物。

 

本校で飼育中のヨウスコウワニ。

本校で飼育中のヨウスコウワニ。ジョンソン・Fact・ファクション。通称“J”

 本校でも、“J”と愛称のついたヨウスコウワニを飼育しています。ワニはとても頭が良く、天王寺動物園でも毎日見る飼育員や担当者の顔や声を覚えているそうです。本校の“J”も、学校で飼育しはじめてから、毎日呼びかけていると喉を震わせ、ポポポっと小刻みに返事してくれるようになりました。まぁ、返事をするまで呼び続けますから「しつこいっ」と怒られているだけなのかもしれませんが。

 一方、IFARにいるヨウスコウワニは2頭、1頭をよく見ると笑っているどころかしゃくれています。当の本人はいたって気にせず毎日過ごしているようですね。イベント中は“シャック”と呼び、毎日の癒しでもありました。動物たちが私たち人間に教えてくれること、与えてくれること、本当にたくさんあります。時には優しく、時には厳しく、私たちに接し指導してくれるわけですが、それもまた、飼育に携わる仕事のやりがいです。こんな一スタッフを今日もまた、笑って見ているのかもしれません。  最後にもう一度見てください。ほら、笑ってるでしょ?

(ひろたに あおい)