現在、天王寺動物園 では 13 頭のチュウゴクオオカミを飼育しています。中国の上海動物園からやってきた2002年生まれのチュンサン、2004年生まれの ユジン 、そしてチュンサンとユジンの間に2009年に生まれた雌の楽楽(ララ)、萌萌(モンモン)、明明(ミンミン)、雄の元元(ゲンゲン)、 2010年生まれの雄のドゥドゥ、雌のメラ、フェフェ、メグ、アリ、ミザ、ベネです。今回は動物園という野生とは違う特殊な環境下での天王寺動物園のオオカミの群れを紹介したいと思います。
私がオオカミ担当となったのは2011年、子供たちがちょうど2歳と1歳になったころでした。そのころは父親のチュンサンと元元(ゲンゲン)の2頭は繁殖制限のため繁殖時期の秋から5月までは雌の群れとは隔離していたので、群れは雌のリーダーであるユジンを筆頭に11頭が1つの群れで仲良く平和に過ごしていたので、その後オオカミの群れ飼育の難しさを味わうことになるとは想像もつきませんでした。
オオカミの群れ(パック)には雄、雌それぞれに順位があり繁殖できるのは基本的に 第一位のα(アルファ)雄とα(アルファ)雌だけです。子供たちが性成熟に達すると親、子供、兄弟であっても順位争いのライバルとして意識しその順位争いは発情期に特に激しくなります。野生では性成熟に達すると群れを出るか群れにとどまって子育てを手伝うヘルパーになるかを選びますが、天王寺動物園では群れを出るという選択肢はありませんので、群れに残るしかありません。そして繁殖制限をしているため群れの中にいてもヘルパーの役目がないという状況の中で、狭い限られたスペースで同居しなければならないという環境です。
その無理が生じてか、頻繁にオオカミ同士でもめごとが起こるようになってきました。初めての争いは、2011年の5月、隔離していた雄2頭を雌の群れに戻したことがきっかけで起こりました。同居後2、3日後には2頭とも群れに溶け込んでいる様子に見えましたが、2週間位してから父親でα雄であったチュンサンがユジンを筆頭にみんなに攻撃され始めたのです。
チュンサンがαであるという認識がなくなってしまい、ユジンが元元(ゲンゲン)をα雄として認めたためチュンサンを群れから追い出そうとしているのか、群れから分けたことがよくなかったのか、初めてのことで悩みました。ぎりぎりまで様子を見ましたが、 日に日に傷が増え、群れに戻れそうにないと判断しチュンサンを群れから抜くことにしました。
それからしばらく群れは落ち着いていましたが、ある日、順位が2位だった楽楽(ララ)を筆頭にユジンへの攻撃が始まりました。オオカミの群れはαをトップに、表情や鳴き声、尾の形や動き、毛の逆立ち、体の動きによって、相手に対して優位を示したり、逆に敬意を表したりといったことを行ない順位が常にボディランゲージによって表現されます。ユジンは顔つきも行動もαらしいαで、常に堂々と飼育員に対しても攻撃的でしたが、みんなに攻撃され始めてから態度が一変しました。誰に対しても耳を下げ尻尾を丸め怯えた顔つきになり、まるで別人(別個体)のようになってしまいました。チュンサンの時と同様にしばらく様子見ましたが、やはり諦め分けることにしました。
その後は楽楽(ララ)が雌9頭のαとなりしばらく安定は続きましたが、2013年の秋の繁殖期、ちょうど2010年生まれの子どもたちが性成熟したころに、あちこちで順位争いがみられるようになってきました。そのいざこざは、楽楽(ララ)が仲裁に入って収めていたのですが、2014年2月、1度も攻撃されたことのない楽楽(ララ)が夜の間に攻撃され大けがを負ってしまったのです。朝寝室をのぞくと、全頭血まみれで楽楽(ララ)はグッタリと横になっていました。 数十針も縫うかなりの重傷でした。

楽楽(ララ)の手術風景

10数針縫合した楽楽(ララ)の前足の傷
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楽楽(ララ)を隔離後、群れはまとまりを失いあちこちで争いが止まず、結局全て1頭か2頭に分ける形となってしまいました。
日本でチュウゴクオオカミを飼育しているのは天王寺動物園だけということもあり、今のところ他園への搬出予定はありません。展示場、バックヤードの空きも限られているので、あまりばらばらになってしまうと交代展示で2、3日に1回しか外に出してやれなくなりますし、また、せっかく多頭飼育しているのですからオオカミの群れを見てもらいたいという思いもあり、この4月から2010年生まれの雌6頭での同居に再びチャレンジしています。繁殖時期も終わったので6頭でまとまってくれることを期待していたのですが、またまた悪戦苦闘しています。2頭では仲良くやっていたもの同士が6頭の群れになるともめてしまうこともあったり、オオカミのパックは思惑や力関係が複雑に絡みあった集合体です。1頭1頭をよく見て性質や群れでの関係性を 理解しておくことが大切だなとつくづく感じています。一番弱い個体を取り除いても 結局また次の弱い子が出てくるので、弱い個体はある意味必要なのですが、その弱い子ができるだけほかの子に接触しないようにやりすごせるような逃げ場を作っていくこと(天王寺の展示場は平面的な造りなので少し工夫が必要ですが)もこれからの課題です。

ミザ(左)とメグ(右)
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あまり激しくぶつかり合わないよう同居させる頭数を減らしたり組み合わせを替えてみたりしながら様子をみていますので、日によって見ることができる個体は違ってきますが、観察してみると面白いですのでぜひご覧ください。
(松岡 早苗)
グラフZOOに同居練習中の6頭の写真、見分け方を載せています。 また、群れで生活している以上、闘争による負傷で多少の出血することはある程度我慢して見守らないといけないので、その点はご理解をお願いいたします。
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