天王寺動物園「なきごえ」WEB版

なきごえ 2018年11月号 Vol.54-04

 「動物園で教育普及活動?」と思われる方、結構多いのではないでしょうか?動物園は、レジャー施設としてとらえられることが多いので、来園者や市民のみなさんの多くは、動物園は「学ぶ」ところというより「楽しむ」ところというイメージが強いと思います。もちろん、レジャー施設としての役割もあるのですが、天王寺動物園は、博物館法における博物館相当施設でもあり、社会教育施設としての役割も求められています。当園では、これまでも教育普及活動として、ごはんタイム・おやつタイムを利用したワンポイントガイドや学校や団体を対象に動物に関する講話や職場体験の受入れ、出張スクールなどを行う「ディスカバープログラム」、企画展や各種イベントで動物に関するガイドなどを実施し、これまでもこういった活動を行ってきましたが、「天王寺動物園101計画」(平成28年10月策定)で、天王寺動物園が果たすべき役割の一つに「社会教育機能」を掲げ、社会教育機能を向上させるために、教育普及活動になおいっそう力を入れていくことになりました。

 社会教育機能の向上のために、まず初めに着手したのは、学校教育との連携です。前述のとおり、当園では学校向けのプログラムがあり、職員がプログラムを作成し、実施してきました。プログラムの内容は、動物やその生息環境などに関することや動物園職員の仕事紹介など当園の職員の知識や経験を基に作成したもので、学校教育や授業への活用を意識したものではなく、また利用者である学校側も、遠足や校外学習のついでに動物に関する話を聴くという利用形態がほとんどで、一部にはキャリア教育や平和学習の一環といった利用もありましたが、授業として動物園を利用するという認識が希薄だったように思います。

 そこでどうしたら学校の授業で活用していただけるのかと考えたときに、学校の授業は学習指導要領に基づいてなされているので、学習指導要領に準拠させれば授業として取り入れていただきやすいのではないかと思い至り、学習指導要領に準拠したプログラムの開発に取り組むことにしました。学習指導要領を参考に、学年ごとの目標や児童の理解度などを勘案し、対象を小学校低学年、中学年、高学年の3段階に分けて各1種類、中学校向けに1種類と合計4種類を開発することにしました。また授業で実施しやすいよう標準の実施時間を40分に設定しました。授業で利用していただくものではありますが、普段の授業と変わらなければ動物園があえて教育プログラムを提供する意味がありません。動物園らしさがでるように、また、子どもたちが興味を持って、楽しく学べるように、イラストや動物の動画を多用したパワーポイントを作成しました。加えて、ぬいぐるみや関節の模型など実際に手に取ることができるハンズオン教材や、振り返りやアウトプットがしやすいようワークシートも作成しました。動物に関する特別な知識がなくともプログラムが実施できるよう、実施者用のマニュアルも作成しました。

図1

低中学年向けのプログラムでは、ちょっとクールで知りたがりという設定の男の子「天ぼう」(左)が登場し、飼育員(右)に質問を投げかけます。子どもたちが「天ぼう」に自分を重ね合わせることで共感し、より理解が深まるのではと考えました。

 こうして完成した天王寺動物園教育プログラムは、「ZOO(ず~)パック」と名づけ、今年度から貸出を開始しました。これまで、天王寺動物園と学校や教員の方々とのネットワークはあまりありませんでしたが、教員研修や教員のための博物館の日など、学校関係者や教員と直接コンタクトが取れる数少ない機会を利用して地道な周知活動を行ってきました。その結果かどうかはわかりませんが、徐々に貸出の依頼が増えてきており、利用した学校や教員の反応は現在のところ上々です。より多くの学校で活用していただけるよう、今後も周知に努めるとともに、学校や教員の声に耳を傾けながら、内容や貸出方法などの改善をしていきたいと思っています。

写真―1

低学年向けの「あかちゃん」のセット
人間とホッキョクグマの赤ちゃんは原寸大で、重さも一般的な実際の重さにしています。

写真―2

中学年向けの 骨と関節「かっくん、ぐるぐる、く~ねくね」では、ハンズオン教材で3種類の関節の動きを再現します。

写真―2

高学年向けの「命のつながり」では、食物連鎖について学びますが、シカとオオカミの頭骨や爪などを手にとって見ることで、それぞれの行動や食性にあった体の作りになっていることも学べます。

写真―2

中学年向けの「生き物の仲間分け(分類)」いきものカードで分類のルールを考えます。

 またつぎに、めざすべきところを明確化し、継続的かつ系統だった教育普及活動を行っていくために、当園における教育普及活動の基本方針として、「天王寺動物園教育ポリシー」を策定することにしました。策定にあたっては、動物園が教育普及活動する上での強みや動物園らしさをどう表現するか、動物園ができることは何か、動物園だからできることは何かなど、教育関係者や動物園での教育普及活動に造詣の深い有識者の方々からご意見をいただきながら、取りまとめを行いました。天王寺動物園教育ポリシーは、めざすべき姿や基本方針、基本方針の具体化に向けて取り組む事項という構成になっています。今後の天王寺動物園の教育普及活動は、このポリシーに沿って実施していくことになります。

 そのうえさらには天王寺動物園を大人の学びの場として活用していただくべく、大人を対象にした生涯学習プログラムの開発に取り組んでいます。これまでも大人の方にも受講いただける講話のメニューはありましたが、大人だけを対象にしたプログラムはありませんでした。対象を大人に特化することで、これまでよりも専門的な内容でより深く学んでいただくこともできますし、逆に、これまで動物園に足を運ぶことがなかった方々に訴えるような内容や切り口で新しい客層にアプローチすることもできるのでは?と、まだ企画の段階ではありますが、どんなプログラムになるのか、私たちもドキドキ、ワクワクしています。

 そして一方では平成30年度中には、大人を対象にしたワークショップも開催する予定です。沢山の方々に興味を持ってご参加いただけるような企画にしたいと思っています。

 最後にもう一つだけ、来園者の方がすぐに実感していただける教育普及活動をご紹介します。園内に展示している動物の名前や見分け方などの個体情報や生息域などを紹介している職員のお手製パネル、こちらも教育普及活動として行われているものです。動物や各個体について知っていただく、親しみを持っていただくだけでなく、動物の生態や生息環境などについても、興味や関心を深めていただけるように作成しています。このパネルのほとんどは飼育員が飼育作業の合間に作成しています。かわいいイラストがあったり、飼育員ならではの情報があったりなどと愛情と個性にあふれていますので、ご来園のときには、このお手製パネルにもご注目いただければと思います。

写真―2

写真―2

名前や生年月日、性格は定番。観察のポイントやエンリッチメントなどの説明もあります。

 動物園での教育普及活動は、どれも堅苦しいものでも、小難しいものでもありません。天王寺動物園では、動物園を楽しむ延長線上に、ちょっとした学びや気づきがあるような教育普及活動を行っていきたいと思っています。

(高坂 悦子)


天王寺動物園教育ポリシー

 

■目標 ~めざすべき姿~

動物園としての使命を果たすため、老若男女、動物の好き嫌いにかかわらず、天王寺動物園を利用する多くの人々に楽しんでいただきつつ、
・動物や生息環境についての正しい知識
・動物、植物あらゆる生きものの命の尊さ
・生物多様性と人間とのかかわり
について、わかりやすく伝え、また、より理解が深まるような教育活動を展開することで人々の行動変化を促し、
・自ら考え、野生動物や環境保全、生物多様性の保全につながる、行動ができるヒト
・あらゆる生きものの命を大切にするヒト
を育む場となることをめざします。

 

■基本方針

方針1 動物園の利用者の大半を占めるレジャー目的の利用者に対しては、展示等を通じてメッセージを発信し、生物多様性保全の重要性等に関する気づきを与えることをめざします。

方針2 生物多様性や環境問題に関心を有する利用者に対しては、さらに深く学べるようなプログラムを提供していきます。

方針3 学校、博物館、図書館等の機関と連携しつつ、ボランティアや外部の各種団体との協力を得て、教育活動の幅を広げていきます。

 

■基本方針の具体化に向けて

1 当園が力を入れていくテーマ
①生物多様性保全教育・環境教育
・生息地の破壊や密猟等による野生動物の絶滅や個体数の減少と、それらの保全活動の大切さを伝えていきます。
・動物園が行っている生物多様性保全の活動について伝えていきます。
・野生動物に悪影響を与える地球温暖化などの地球規模の環境問題についても伝えていきます。
・SNSを活用して生物多様性や環境に関する情報発信を推進します。
②命の教育
・バーチャルでしか生きものに触れる機会のない人々が増加していることに鑑み、動物とのふれあい等を通じて、生きものの温かさや命の尊さを伝えていきます。
・動物の生と死について伝えるとともに、他の生きものの命によって我々が生かされていることについても伝えていきます。
・これらの活動を通じて、あらゆる生きものの命を大切にする心を育むことをめざします。
③ESD(Education for Sustainable Development;持続可能な開発の教育)
・海外の野生動物の解説に加え、文化的な違いなども伝えることにより、国際理解教育に貢献します。
・戦時中の猛獣処分など当園で起こった悲しい出来事を語り継ぎ、平和教育に貢献します。

2 展示等を通じた教育活動

・動物展示そのものやそれに付随するパネルなどを通じて、レジャー目的の来園者であっても、知らず知らずの間に学びや気付きができる仕掛けを展開します。また、解説等をより読んでいただけるよう、手書きパネルなどアイキャッチ効果が高くなるような工夫や滞留時間を長くするための工夫に努めます。
・獣舎前のパネル等における情報提供にあたっては、動物種の情報だけではなく、動物に愛着を持っていただけるよう、個体の情報の提供に努めます。
・動物の生態などに関するパネルの記載については、専門家の協力を得て科学的知見を踏まえたものに更新するなど、正確かつ最新の情報の提供に努めます。
・お客様に楽しんでいただきながら、動物や環境問題等についても知っていただけるような解説やガイドの充実を進めます。
・園内の生態的展示を活用した環境教育を進めます。
・101計画に基づき今後整備していくエリア・施設については、動物の自然の行動を引き出す魅力的な展示とするとともに、生物多様性保全等への気づきを与える仕掛けを盛り込みます。
・定期的に開催している企画展については、内容の充実を図ります。
・基本展示が可能な展示室等を設置し、当園が所蔵している標本や剥製を活かした展示を行います。
・SNSを活用した動物に関する情報発信を推進します。

3 教育プログラムの開発・提供
・各種のニーズに応えられるような教育プログラムの開発を進めます。プログラム開発にあたっては、子どもだけでなく、幅広い年齢層・関心層を対象としたプログラムの開発を進めます。
・学校園への出前授業を積極的に実施するとともに、企業や施設等への出張スクールを推進します。
・学校園での授業に活用できる教育素材の作成・貸出を行います。

4 外部との連携
・学校教員等の協力を得て、学習指導要領に基づく教育活動に資する教育プログラムの開発を進めます。また、学校教育での動物園の利用を促すため、学校教員との対話を深め、学校現場のニーズの汲み上げに努めます。
・教員研修への協力等を通じて、教科にかかわらず動物園の教育利用に理解のある教員を増加させるとともに、教育関係者と継続的な関係構築を図ります。
・博物館、図書館等との連携を強化し、より効果的な教育普及活動を展開します。
・大学、研究機関等による動物園をフィールドとした教育研究活動を積極的に受け入れるとともに、その活動を当園の教育普及活動にも活かしていきます。
・NPO、企業等との連携を積極的に進め、動物園をフィールドとした教育活動を促進します。
・動物園が提供する教育サービスを拡大させるため、動物園における教育活動に関わるボランティアをサポートし、その活動を活性化させます。また、高度な専門知識のあるボランティアの確保に努めます。

5 専門能力構築と評価
・効果的な展示や学校教育等に対応した教育プログラムが提供できるよう、動物園職員の研修等を実施します。
・来園者調査の実施などにより、展示や教育プログラムの効果についての評価を行い、教育普及事業の継続的な改善を行います。



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