サル舎の白いホースなんなのこれ?― 水品巻きがつむぐ「森のネットワーク」―

「あの白いホースは何ですか?」

 

サル舎をご覧になっているお客様から、よくこんな質問をいただきます。

 

実はあれは、消防署で実際に使われていた消防ホースです。

 

消防ホースには使用期限があり、役目を終えると廃棄されます。

 

動物園では、その消防ホースを再利用し、動物たちの暮らしをより豊かにする環境エンリッチメントの材料として活用しています。

 

今回は、その白いホースに込められた工夫をご紹介したいと思います。

 

 

オランウータンから始まったアイデア

 

消防ホースは、ハンモックや遊具など、さまざまな用途で利用されています。

 

私たちが取り入れたのは、ホースをねじって作る**「水品巻き(みずしなまき)」**です。

 

この手法は、市川市動植物園の水品園長が考案されたもので、もともとはオランウータンの飼育現場から生まれました。

 

ホースをねじることで表面に凹凸ができ、オランウータンが握りやすくなります。

 

その形は、自然界のツル植物にもよく似ており、手や体によくフィットするため、移動や休息など様々な行動を助けてくれます。

 

その優れた効果から、現在では全国の動物園へと広がっています。

 

天王寺動物園では現在オランウータンは飼育していませんが、この考え方を参考に、フクロテナガザルをはじめとするサルたちの展示づくりに取り入れています。

 

 

水品巻きを作ってみる

天王寺動物園 サルヒヒ舎 消防ホースをねじる
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水品巻きは、自転車のクランクに消防ホースを固定し、ペダルを回して作ります。

 

手で巻くよりも均一で力強いねじれを短時間で作ることができます。

 

私は少し強めにねじり込んでいます。

 

すると輪がたくさんでき、あとから木の枝を差し込んだり、別のホースとつないだりしやすくなるからです。

 

強くねじり上げたホースを束ねると、私には生命力あふれる熱帯林のツル植物やガジュマルのようにも見えてきます。

 

そして、不思議なことに、同じ形は二つとしてできません。

 

一本一本が、それぞれ違った表情を見せてくれます。

 

 

フクロテナガザルが教えてくれたこと

写真は、フクロテナガザルの「レモン」と「ナナ」の展示場です。

 

U字型に吊るした水品巻きを設置すると、2頭はすぐに利用してくれるようになりました。

 

移動したり、ぶら下がったり、体を預けて休んだり。

 

私たちが思っていた以上に、自然な形で展示場に溶け込んでいきました。

 

その様子を毎日見ているうちに、私自身も一つのことに気付きました。

 

 

一本の遊具ではなく、「森」をつくる

 

最初は、水品巻きを一本の遊具として考えていました。

 

しかし、何本も吊るし、さらに天然の木の枝を組み合わせていくと、展示場の景色が少しずつ変わってきました。

 

天井から複数の水品巻きが垂れ下がる様子は、まるで熱帯林のツル植物のようです。

 

さらに、輪になった部分へ木の枝を差し込むことで、硬い枝と柔らかいホースが立体的につながり、サルたちが自由に行き来できる空間が生まれてきました。

 

ここで私は、あることに気付きました。

 

サルにとって大切なのは、立派な枝が一本あることではありません。

 

「ここから、あそこへ行ける。」

 

「途中で休める。」

 

「今日は違うルートを選べる。」

 

そんな移動経路そのものが、彼らの暮らしを豊かにしているのではないかということです。

 

一本一本の遊具ではなく、それらがつながることで生まれる**「森のネットワーク」**。

 

それが、この展示づくりの考え方になっていきました。

 

 

目指しているのは「上で暮らせる森」

 

私は展示場を「上・中・下」の三つの空間として考えています。

 

これまでも高い場所へ登ることはできましたが、上段で長い時間を過ごせる場所はあまり多くありませんでした。

 

そこで目指したのは、遊具を増やすことではありません。

 

水品巻きと木の枝を組み合わせ、野生のサルたちが暮らす**樹冠(木々の上部)**のような空間をつくることです。

 

移動するだけではなく、

 

休み、遊び、食べ、仲間と過ごす。

 

そんな「生活の場」を、展示場の上段につくれたらと考えています。

 

 

まだまだ進化の途中です

 

この展示場は、まだ完成ではありません。

 

サルたちがどこを歩き、どこで休み、どんなルートを選ぶのか。

 

毎日の観察を繰り返しながら、水品巻きを一本加え、木の枝を一本つなぎ、また様子を見る。

 

そんな小さな積み重ねを続けています。

 

展示場の外側に吊るしているホースにも、ちゃんと役割があります。

 

これから木の枝を組み合わせたり、少し手の届きにくい場所へ好物の枝葉を設置したりして、さらにサルたちの行動の幅を広げていきたいと考えています。

 

どんな新しい発見があるのか。

 

私たち飼育員も楽しみにしています。

 

 

次回予告

 

今回ご紹介した水品巻きは、一本の遊具ではなく、**「森のネットワーク」をつくるための部品(モジュール)**でもあります。

 

次回は、私が少し強めにねじるようになった理由や、そこから見えてきた**「樹冠密度(上空にどれだけ生活できる空間があるか)」「接続密度(一本の枝から何通り移動できるか。)」**

という考え方についてご紹介します。

 

サルたちが、どのように「森」を使いこなしているのか。

 

ぜひ次回もお楽しみに。

 

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