動物園ではたくさんの生き物を飼育していますが、「生」がある限り必ず「死」がおとずれます。天王寺動物園では、残念ながら死亡してしまった動物たちを標本として保管し、教育活動に役立てています。
⇩標本を展示しているTENNOJI ZOO MUSEUM
今年の3月、アイファーで飼育していたアメリカドクトカゲが死亡しました。
その頭骨標本を作製したので、今回はその過程を紹介していこうと思います。
⇩アメリカドクトカゲ
解剖を終えたドクトカゲの頭部を、獣医から受け取って作業開始です。
まずはヒフを剝がしていくのですが、早くも想定外のことが起こりました。
以前、ボールニシキヘビの標本を作製した際は簡単にヒフを剝がすことができたので、それと同じようにできると考えながら小さめのナイフとピンセットを使って作業を開始したのですが、ドクトカゲの場合、顔の下側のヒフはヘビ同様簡単に剥がれたものの、上側のヒフはうんともすんともいいませんでした。
じつは、ヘビのヒフを覆うウロコはケラチンいうヒトの爪や毛と同じ素材でできており、それなりの硬さではありますが刃が全く通らないというほどではありません。
しかし、ドクトカゲは、皮骨と呼ばれる骨質の組織が、背中側のウロコの下にまるで石畳のように敷き詰められています。
特に頭部の皮骨はより強固にできており、1つ1つが大きく分厚いだけでなく、皮骨同士がぴっちり隣り合っているため隙間に刃を入れることができません。
加えて鼻先から額にかけては頭骨と皮骨の間にも隙間がないので、そこに何かをねじ込んで剥がすということもできませんでした。
取れないものは仕方がない。むしろドクトカゲ感が出て良いかも、なんて思いながら皮骨を残して製作を進めることにしたのですが、顎の関節周辺のヒフが邪魔で顎の筋肉を取り除くことができません。
そこで、顎の筋肉の他にもピンセットの届かない部分の肉やら脂肪やらを食べてもらおうと、ウジ虫を利用したのですがこれが悪手でした…
以下、頭部の骨の写真が出てきます。苦手な方はご注意ください。
3日ほど放置していたのですが、ウジ虫の能力を過小評価していたようで、真皮の部分も食べられ顎の関節周辺の皮骨がバラバラになってしまいました。
ボールニシキヘビの標本を作った時は全ての骨をバラバラにしたところ、元の形に組み直すのがかなり大変でした。そのため、今回は関節を繋げたまま乾燥させようと思っていたのですが、軟骨まで見事に食べられてしまい下顎が外れてしまいました。
その他の骨の繋ぎ目もユルユルになっていて持ち上げただけで外れそうになっていたので、覚悟を決めて一度全部の骨をバラすことにしました。と、いってもバラバラにすること自体は特段難しいことはありません。
何が大変かというと、元の形に組み直す時のために、どの骨がどの骨とどんな角度で繋がっていたかを記憶、記録しないといけないことです。
丸一日作製に没頭できるなら記憶が新しいうちに組み立てができるのでいいのですが、標本作製のために本来の飼育業務が疎かになってしまっては話になりません。
休憩時間や作業の合間にちょこちょこと数日かけてバラバラにしていくため、頭で覚えておくのは無理だったので様々な方向から写真を撮りまくっておきました。
データフォルダに50枚以上骨の写真が保存されていたので、他人に写真フォルダを見られたら変な人だと思われてしまうところでした…
分からなくならないようパーツごとに並べながら、全ての骨をバラバラにし終えました。
消毒と漂白を兼ねてさらし粉※を水に溶かしたものに半日ほど浸けておいて、乾燥させた後、いよいよ組み立て作業の開始です。※消毒や漂白に使われる粉末のこと
大変だなんだと言っていましたが、こういう細かい作業は嫌いじゃないどころかずっとやっていられるくらい好きなので、休憩時間や作業の合間に黙々と組み立てていきます。
50枚以上写真を撮りましたがそれでも不十分だったようで何度か頭を抱えてしまいそうな場面もありました。しかし、骨と骨を合わせているとパズルのようにピッタリはまるところがあるので、それを探すのもゲーム感覚で楽しめました。大きなパーツごとにまとめることができたら後は簡単です。
それらを組み合わせてドクトカゲの頭骨標本の完成です。
皮骨の部分がバラバラになった時は「もったいないことをしたな」と後悔しましたが、これはこれで顎の関節がよく見えるので、ヘビの頭骨との比較がしやすくなったし結果オーライと言ったところです。
バラバラになった皮骨も軽く漂白してこのとおり保存しておきます。
ただ、このバラバラの皮骨を見て思ったのです。
こんな状態じゃなくてヒフと一体になってる皮骨も残しておきたいな、と。
ドクトカゲの皮なめし編へ続く…